第13話

文字数 625文字

 階下にいた者たちが、灰色の影の制止をとうとう振り切って、雪崩をうって室内に乱入してきた。

 母親を小突き、次いで蹴倒した者たちは、いくつかのキノコ(茸)が組み合わされた形状をしており、その肉体(?)はダイヤモンドでできていた。
 彼らは床に倒れて苦痛の呻きを上げるぼくの母親にその硬度高き腕をふるって、ひたすら彼女の殴打に努めていたが、その物理法則を超越した激しい衝撃は打撃箇所をこの世から消去せしめるに十分な威力を発揮した。流血や肉体の破損というのではなく、ぼくの母親に次々と純然たる空白を生じせしめたのである。

 だからこの霊威すさまじき暴行がつづく限り、ぼくの母親がこの世から消えてしまうことは明白だった。

 ぼくが殺した兄の死体はもう生き返ることはない。

 ぼくたちは、中途で挫折させられた兄の創造の、整合性もない世界に閉じ込められてしまった……

 ダイアモンド・キノコ人間たちの狙いは手袋・ヤドカリ女だった。正確には受精した手袋だった。

 ダイヤモンド・キノコ人間たちの緊迫した追撃に手袋は逃げ惑った。それだけダイヤモンド・キノコ人間は切迫した目的意識をもって全力で彼女(手袋)に追いすがったのだが、手袋の叡智と身体能力が優り、彼女は空気中に暗黒のトンネルを創造すると何処とは知れず消えてしまった。


 手袋・ヤドカリ女の頭部だけがカーペットの上に残り、そのような状態にあっては表面的な意味においてすらも、彼女は最早手袋・ヤドカリ女ではなくて、女だった――
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