第2話

文字数 470文字

 その日は雪ではなく雨だった。
 彼らが訪ねてきたのは、午後二時から三時の間の暗い時間だったと思う。
 兄はとにかく天才なので、会ってみたいという人はたいへん多い。しかし才人にあちがちなように、彼は社会的地位をもった人々に対してなんらの敬意も感じていない。
 だから訪ねてきたスーパーエディター、テクノロジー企業の役員級、そしてサイト運営者などという者に、じっさいに兄が会うものか、訪問者たちはもとより、ぼくたち家族(父母ぼくの三人が玄関で彼らを迎えた)も疑念に心を閉ざされていた。なにしろイーロン・マスクが訪ねてきても、アメリカ大統領がやってきても、きっと関心を示さないのが、ぼくの兄なのだから。
 だから玄関ホールに現れた訪問者たちは照れ笑いを顔に浮かべていた。まるで、「お会いできないのは承知ですから」という言い訳をあらかじめ示してみせるように。
 しかし兄は階上の自室から出てくるだろうという確信が突然ぼくをとらえた。
 それは三人の背後に、どうみても彼らとは無関係な、もうひとりの人物がポーチの階段をあがってくるのをぼくが目にしたからだった。
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