第10話

文字数 566文字

 おぞましくも甘美な世界……

 水平線上に浮かぶ巨人は、世界の明滅などにはおかまいなく、盛夏の暑熱にもうなされることはなくて、ただ穏やかに昼寝している。
 そんな光景が遠望されるビーチを裸足で、もはや裸に近いかっこうで、女と男はレストランにむかって歩いていく。
 レストランは円柱によって高所に支えられた空中建造物で、そのテラス席は透明で、青い海が足下にクリアに見える。
 シラエビ(白海老)が経営するレストランであり、料理としてはたいてい人間が供されている。
 シラエビは、名のとおりに、白い海老の姿をして半透明だが、これは正確には人間だ。「人間サイズの海老」とも称される。見た目が海老の人間だ。
 支配人をつとめるオオタというシラエビがこのカップルを海上のテラス席に案内する。潮騒が気持ちいい。
 オオタは開店前に店員たちと賄いをすませたのだろう、半透明のからだには、未消化の人間が透けて見えている。グラタンにした人間をでも食したのだろう。
 植物もあらゆる動物も平等な社会では、食べる食べられるの関係も、それは界、門、亜門、綱、上目、目など考慮されず平等である。
「ミイケさま、今日は風も気持ちようございます。どうぞ楽しいお食事のひとときをお過ごしください」シラエビはやわらかくカップルに声をかけ、遠くガラス張りのドアのむこうへ歩き去っていく。
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