【Session21】2015年12月31日(Thu)大晦日

文字数 1,177文字

 大晦日の日、新宿にある『カウンセリングルーム フィリア』では昨日が仕事納で、今日は学ひとりでカウンセリングルームの大掃除を行なっていた。学は普段は、なかなか時間が取れないためカウンセリングルームの大掃除は出来ない。しかし新年を新たな気持ちで迎えようと、学は仕事納めの翌日にカウンセリングルームの大掃除を行うのを恒例としていたのだった。

 年の瀬と言うこともあり新宿のオフィス街はひともまばらで、来年に向け年末年始を故郷や海外で過ごすひと達で、新幹線や飛行機の混雑するニュースがテレビから流れているのを学は掃除をしながら聴いていた。

 そして夕方、新宿にあるカウンセリングルームを出て、自分の住む川口駅から自宅へと向かおうとしたのだ。すると見覚えのある若い女性が駅の高架下で、冬空の下、歌っているのだった。確か彼女の名前はエリであった。コート姿に手袋をはめ、数人のひと達が立ち止まり彼女の歌を聴いていた。彼女は自分のオリジナル曲を歌った後、中島みゆきの『雪』と言う唄を歌い始めた。今夜はこの唄のように、空はどんよりとして今にも雪が降り出しそうな、そんな雪雲が空を覆い始めていたのだ。

 そう言えば、学のおばあちゃんが亡くなったのも、ちょうど年末の寒い冬の日だった。今日の天気と同じように今にも雪が降り出しそうな、そんな寒い雪空の下、おばあちゃんは天国へと旅立って行ったのだ。学はおばあちゃんから日本にある大切なものをたくさん教えて貰った。そして天国へと召されたのだ。おばあちゃんが亡くなった後、空からチラチラと雪が舞い、学にはそれがおばあちゃんからの最後のプレゼントのように感じられた。その時、学は誓ったのだ。おばあちゃんから教わったものを大切にして行こうと…。

 その後、学は彼女の歌う姿を遠目から眺めながら家路へと急いだのだった。家に帰宅した後、学は冬の寒さの中、近所の銭湯へと向かった。学は普段、あまりお風呂に入らずシャワーで済ませることが多い。しかし近所の『富士の湯』と言う銭湯にはたまに行くことがある。

 その銭湯の番頭のおばちゃんにお金を払い、大きな湯船でくつろぐのが銭湯の醍醐味だ。だが学には残念なことがあった。それは『富士の湯』だが、風呂場の壁に富士山が描かれていなかったからだ。でも一枚の壁越しに男湯と女湯が仕切られており、壁の上から女湯の女性のひと達の会話が聴こえて来るのも、普通の温泉ではなかなか味わえない、そんな昔ながらの情緒を感じることが出来るのであった。

 そして学が風呂上がりに飲むのは定番のコーヒー牛乳で、脱衣所には「体重計」「マッサージ機」「ドライヤー」、そして大きな「鏡」が備え付けてあったのだ。学は夕飯として近くの『富士そば』で、年越しそばを食べた。これが学の毎年年末の恒例行事であり、富士山繋がりで年の瀬を締めくくるのである。
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