【Session07】2015年08月09日(Sun)

文字数 2,905文字

 今日は朝から雲ひとつ無い快晴で、気温も上がり首筋や上着から汗がにじみ出る程の暑い夏の日である。

 この日は透の誕生日で、新宿歌舞伎町にある透のお店『新宿歌舞伎町ホストクラブ ACE』では、透の27歳の誕生日パーティーを店を挙げて盛大に行うとのことで、彩とじゅん子ママは透に招待されていたのだ。
 彩とじゅん子ママは新宿駅の中央東口改札前に17時に待ち合わせしていた。そして彩は少し早めに到着し、じゅん子ママが来るのを待っていると、彩が到着してから5分が過ぎようとした頃にじゅん子ママが颯爽と現れ、彩の姿を見つけこう言った。

じゅん子ママ:「ひとみちゃん。いや、彩ちゃんその格好ちょっとまずいよ」
木下彩:「えぇー、わたしのどこがまずいんでしょうか?」

じゅん子ママ:「だって今日、透ちゃんの誕生日だよ。その格好じゃあ」
木下彩:「でも、わたしの持っている服はこれしかないんです」

じゅん子ママ:「彩ちゃんさぁー。透ちゃんの誕生日なんだから、もっとおめかしして来ないと…」
木下彩:「でも…」

じゅん子ママ:「せっかくの透ちゃんの誕生日だからさぁ。透ちゃんに恥かかせない格好して来ないと…」
木下彩:「でも…」

じゅん子ママ:「わかったわ。まだ時間あるからついておいで! 行きつけの服屋さんに行くから」
木下彩:「でも…。そんなにお金ないから」

じゅん子ママ:「その分、わたしのお店で働いて貰うから、気にしなくて大丈夫よ! ひとみちゃん、いや彩ちゃん」
木下彩:「そうですか、それなら」

 こうして二人は、新宿にあるじゅん子ママの行きつけの服屋さんへと向かったのであった。彩は今まで自分では買ったことのない高級な店構えのお店に連れて来られ、眩いばかりの服が整然と並んでおり、彩の生活にはありえない非日常的で、まるで宝石箱の蓋を開け自分がシンデレラとなって色々な服を着せられて行く、そんな感覚に陥ったのである。
 そしてその幾つもの服の中から透好みの服をじゅん子ママが選び、彩に着せ替え人形のように着せて行くのであった。こうしてお店での服選びも終わり、二人は新宿歌舞伎町へと吸い込まれて行ったのだ。彩は水色のドレスを着せられているかのようなそんな心境であった。

 服選びには一時間程かかったがそれでもあっという間の出来事で、今からシンデレラとなった彩がまるでお城の王子様に会いに行くような、そんな面持ちと時間の経過を覚えたのだ。そして透の待つ『新宿歌舞伎町ホストクラブ ACE』の透の誕生日パーティーに予定より30分遅れて到着した。

樋尻透:「ママ、遅かったじゃん。待ってたよぉー」
じゅん子ママ:「ごめんごめん。彩ちゃんがさぁー」

樋尻透:「まぁー。いいから、いいから」
じゅん子ママ:「そうね。おめでとう透ちゃん」

樋尻透:「彩ちゃんも待ってたよぉー」
木下彩:「こんばんは透くん。お誕生日おめでとう」

樋尻透:「今日の彩ちゃん。とってもかわいいよ」
木下彩:「ありがとう」

 こうして彩とじゅん子ママは、透のお店『新宿歌舞伎町ホストクラブ ACE』の店の中に入って行ったのだ。お店の中は前に入った時よりもゴージャスな飾り付けがされていて、シャンパンタワーも準備されてあった。
 彩は羽織っていたストールを脱ぎ、水色のドレスに包まれた彼女の姿を伺うことが透にも出来た。そしてその姿は、彼女の清楚感をさらに引き出していったのである。
 それを観た透はすかさず自分のポケットからスマホを取り出し、少しニヤつきながら操作をし始めたのだ。そして何やらLINEで誰かにメッセージを送っているように周りのひと達には感じられた。

樋尻透:「彩ちゃん、来てくれてありがとう。そうそう彩ちゃんのスマホ、いま鳴ったよねぇ」
木下彩:「えぇー、誰からだろう?」

樋尻透:「誰からの連絡か観たほうがいいんじゃないの?」
木下彩:「うん。ちょっと観てみるね透くん」

樋尻透:「その方が、いいと思うよ」
木下彩:「LINEが届いてる。誰だろう?」

 彩がLINEを観ると透から何かメッセージが入っていることがわかり、不思議そうにその内容を観たのだ。その内容とは「Good Morning!!!」と言うメッセージであった。それを観た彩はたちまちひとみへと変貌したのである。

綾瀬ひとみ:「お・は・よ。透!」
樋尻透:「ひとみちゃん。逢いたかったよぉー」

綾瀬ひとみ:「わ・た・し・も♡」
樋尻透:「今日は楽しんでいってね。ひとみちゃん」

綾瀬ひとみ:「あ・り・が・と♡」

 こうして彩はひとみへと豹変し、妖艶な美しさを醸し出すのであった。そして今日のドレスがより一層その妖艶さに美しさも兼ね備え、まるでこころには小悪魔が宿り、それとは対照的に外見は妖精のような美しさを解き放っていたのだった。

 透の誕生日パーティーが本格的に始まり、最初に透の27歳の乾杯を皆んなで行うこととなった。じゅん子ママから透への27歳のお祝いの言葉と共に、誕生日プレゼントとしてロレックスの時計を透に贈られた。そして会場の皆んなで乾杯をしたのだった。

じゅん子ママ:「透の27歳の誕生日を祝って、カンパーイ!」
樋尻透:   「カンパーイ!」
綾瀬ひとみ: 「カンパーイ!」
会場の皆んな:「カンパーイ!」

 ひとみも彩が用意したハンカチを誕生日プレゼントとして透に差し出したのだ。その時、ひとみは透に向かってこう言った。

綾瀬ひとみ:「透ごめんね。もうひとりのわたし、センス無いから…」
樋尻透:「ひとみちゃん、そんなこと無いよ。君たちはふたりでひとりじゃん!」

綾瀬ひとみ:「もうひとりの自分と代わってあげたい。だって、ダサダサなんだもん」
樋尻透:「でも僕は、いつでも君を呼び戻すことができるんだよねぇ」

綾瀬ひとみ:「透! わたしがずーっと外に出られるようにしてよ」
樋尻透:「それは、今はまだ…」

 こうしてひとみと透のやり取りは終わったのだ。そして透はシャンパンタワーを行なって、仲間のホストや女の子と馬鹿騒ぎを始めたのだった。この日の透の誕生日パーティーは夜中まで続き、そして深夜になり終りを告げようとしていたのである。
 この時、透は自分の誕生日が、長崎市への原子爆弾投下(戦後70年)と言うことなど全く気にも止めていなかった。またこの日、透は探偵の今日子に、自分が中学一年生になってすぐ自宅が放火され両親や妹を放火により失い、その放火犯を突き止めるために探偵の今日子に依頼した日でもあったのだ。

 その頃の学はと言うと、彼の『カウンセリングルーム フィリア』に美山みずきと言う女性から、カウンセリングの依頼が届いていた。みずきのカウンセリングの依頼はと言うと、彼女のお店『銀座クラブ SWEET』で働いている女の子に関する内容であった。
 みずきは、みずきのお店で働くホステスのひとりが、こころの問題を抱えているかも知れないので、相談に乗って欲しいと言う内容だった。その時、学はみずきに何時カウンセリングルームに来られるか尋ねたのだ。そしてみずきは学に、8月15日(土)の19時に『カウンセリングルーム フィリア』に訪れることを約束し電話を切ったのである。
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