第4話 四人目の仲間

文字数 1,961文字

「田中、中村、あそこ、あそこのベンチで少し話さないか?」
 ラーメン屋から駅までの間に小さな公園がある。そこは、噴水を取り囲むようにベンチが数個ある公園だ。うちの高校の男子が入学当初に描く夢は、あのベンチで三年間に一回は女の子と座って(出来ることなら手をつないで)話をしたいということだ。
「どうした、山本。」
「実は、俺さぁ、さっきの、さっきの中村のセリフでちょっと悲しい思い出が(よみがえ)ってきて。俺さぁ、田中は知っていると思うけど、小学校の時からあまり特徴がなかったわけよ。そして、中学もさ、勉強も運動も中くらいの感じで…… 三者面談の時とかも先生がなんか凄くゆっくりとそして何かを一生懸命思い出すように話してさ。毎回、毎回、盛り上がりに欠けて話が終ったのだ…… なんかその時のことを思い出しちゃって。俺って、あのラーメンだったのかな。先生たちにとって…… だから、だから俺は先生に興味を持ってもらえなかったのかな……」
 俺と田中は、山本の言葉に心を打たれた。「お前だけじゃないよ」と田中が言った。三人は、お互いの顔を見合わせた。なんだろうこの感覚は……俺がこの学校に求めていたのは、まさにこの瞬間、自分と同じような仲間を見つけることだった。しかし、何とも言えない切ない気持ちが、俺達の心を(おお)っていた。 違うんだ。俺が求めていたこういうものではないのだ。
「俺もさ、さっき、あんなことを言った後に、すぐさま自分の中学の三者面談を思い出してしまった。俺だってそうだ。俺も偉そうにあんなことを言っておきながら、俺こそあのラーメンだったのだよ。」
 田中は深く息を吐きながら、
「山本、中村…… 俺も、俺も、ずっとずっと先生のせいにしていた…… もっと、俺のこと見ろよ、俺のこと話せよってね。でも、実際は違かったのだよね…… 俺のせいだった。俺があまりにも普通だから、先生はすぐに話すネタとがなくなってしまったのだな。本当は、何となく分かっていたことだけど、認めたくなかった。まさか、まさかあのラーメンに俺の存在を気付かされるなんて……」
 自分たちの立ち位置をあのラーメン三番館のラーメンに教わるとは思いもしなかった。だが、このままでは、折角見つけた普通の仲間たちの間に、重苦しい空気が(ただよ)い続けるだけである。始まったばかりの高校生活、待ち望んでいた仲間との出会い、全てが悲しい記憶に変わってしまうのではないかと思ったその時であった。
「あれっ、山本君」
 三人がその声の主を見ると、同じ高校の制服を着て眼鏡をかけた男子が立っていた。
「渡辺君」
「どうしたの?みんな暗~い顔しちゃって?」
 渡辺君は、山本と同じB組の生徒とのことだ。山本と席が近いから、クラスでよく話しているらしい。山本は、渡辺君にお昼に三人でラーメンを食べたこと、そして、そのラーメンが自分たちに見えて落ち込んでいたことを話した。
「な~だ、そんなことか?」
 ― そんなことと簡単に言うなよ。と俺は心の中で叫んだ。-
「俺もあのラーメン屋行ったけど、確かにお前らの感想の通りで、まぁ~普通だったよ。じゃあ、あのラーメンをどのように変えたら美味くなると思う。」
 俺達三人は、渡辺君のポジティブな考え方に驚き、顔を見合わせた。俺たちは一瞬心では反発したものの、渡辺のポジティブな考え方に、新たな光を見出せると感じた。
 「結局、スープを変えると根底から(くつがえ)さなきゃいけないし、麺を変えるってなかなか難しいよな。すると、自分の努力で早急にできるとしたら、あのラーメンに合うトッピングを開発することじゃないか!」
「トッピングか!」
俺達三人は声を合わせて叫んだ。
「実はこの眼鏡、度が入っていないのだよ。姉ちゃんの眼鏡をふざけて借りてかけてみたら、母さんから「眼鏡かけた方がいいかも!」と言われてさ。それで、高校からかけ始めたのさ。だから外すと……」
 渡辺君は、すっと眼鏡を外した。そして、そこには、さっきとはちょっと印象の異なる地味目の高校生が立っていた。
「俺もみんなと一緒で特に特徴のないごく普通の高校生の仲間だよ。俺さ、中学時代に背が高くなりたくて、バレー部に入ったのさ。でも、入ってから気付いたのだけどさぁ、バレーをやるから背が高くなる訳じゃなくて、背が高い奴がバレー部に入るのだよね……」
 思わぬ形で、高校に入学してわずか一週間で俺が待ち望んでいた、典型的な“普通の高校一年生”が3人も見つけることが出来た。俺達は、それぞれが持つ「普通」を「特別なもの」に変えるためのトッピングを見つける旅に出ようと誓いあった。こうして、SNSに新しいグループが誕生した。それは、俺達が共に歩む高校生活の、新しい章の始まりを告げるものだった。これまでの普通の日常を俺達の手で色鮮やかな物語に変えてやろうと……
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