第6話 女子との部活って

文字数 2,254文字

 俺達四人は放課後にバドミントン部の見学に行くこととした。授業が終わり、小川に今日これから見学に行くとメッセージを入れて、俺達四人は体育館に行った。すると、早速、小川がやってきた。
「あっ、来たね。田村先輩、さっき話した中村君と山本君、渡辺君と……・」
「田中です!」
田中はちょっと、不機嫌そうに答えた。
「ごめん、ごめん、田中君ね。中村もちゃんと詳細書いとけよな! 私、B組だから山本君と渡辺君は知っていたからさ。だから、田中君、ごめん、悪く思わないでね。」
 小川は軽く両手を合わせて、頭を下げた。これまで、小川が他の男子と話すところを気にしたことがなかったが、俺との会話とは違って笑顔を交えて話すんだなぁと思った。一方、当の田中はというと、何かボーッとした感じで小川というよりは、他の女子を見ているように見えた。もしかしたら、田中のタイプの子がいるのかもしれない。見学終わったら、ちょっと聞いてみるかな。
「えっと、今、一年生の男子はどれくらい入ったのですか?」
俺は、田村先輩に聞いてみた。
「先週、二人見学に来たかな、確か…… G組と言っていたかも…… 男子バドミントン部は三年が八人、二年が六人で、全員、中学時代は他の運動部だったから。まあ、そういう意味ではみんな初心者だったからね。俺達は、少人数だし、先輩後輩の区別なく楽しく活動しているよ。まあ、今日はちょっと軽く見学してもらって、何か気になることや質問があったらあとで聞くね。」
 そこには真剣な眼差しでシャトルを追う部員たちの姿があった。初心者ばかりの部活と聞いたからか、その中にはどこか温かな絆のようなものを感じた。
 そして、俺の視線は自然と小川に向かっていた。彼女は、いつもとは違う姿で、シャトルを追い、汗を流していた。その姿は、俺にとって新鮮で、心を揺さぶるものがあった。彼女の汗ばんだ額、そして夕日に照らされるシャトルが赤く染まる様は、まるで絵画のようだった。
 不意に小川と目が合ってしまった。小川は、スポーツタオルで少し顔を拭きながら、
 

「中村、どう? 私のバドミントン姿。ちょっとは()れ直した?」
「こ、言葉の使い方。ま、間違っているから!! 惚れ直すはそもそも惚れている前提だからな!」
 小川の言葉は俺の内面を見透かされたようで、甘酸っぱい感情が渦巻いた。 多分、今、自分の顔はきっと紅潮している。出来れば、三人には今の顔を見られたくないと思ったものの、渡辺と山本は見逃していなかったようだ。
すると、田村先輩がやってきた。
「もし、良ければ来週あたりに体験入部してみる? ラケットは、競技用のだから、去年の先輩が残していってくれたものを使ってもらって…… 服は、適当にTシャツとか用意してきて。シューズは、もし、体育館用の靴を持っていれば、それでいいかな。なければ、上履きでもいいよ。何か質問ある?」
 すると、今まで黙ってみていた田中が急に質問した。
「すみません。費用ってどれくらいかかりますか? 俺、中学は野球部だったのですが、野球は硬式用のグローブとかユニフォームとかすごく費用が掛かるというので、野球以外の部活と思っているのですが……」
「ラケットとシューズで3万円くらいかな。これが初期費用で、あとは試合用のユニフォームが1万円くらい。その他にガットの張替費用があるかな。まあ、費用的には野球ほどはかからないと思うよ。」
「ありがとうございました。」
 俺達は田村先輩にお礼を言って、中庭で今後のことを話そうと思っていたら、山本から早速ツッコミが入った。
「中村さぁ~、なんだかんだ言いながら、小川さんに見惚(みと)れていたよな。」
「いや、ちが、違うって…… まあ、言い訳じゃないけど、俺、ずっとサッカー部だったから、女子が一緒の部活にいることがすごく新鮮で……、だから、何かいつもより小川が数割ましに見えて……」
「そうか~? 俺達をバドミントン部に誘ったのは、本当は小川さんが好きで一緒にいたいからじゃないのか?」
渡辺も茶化してきた。
「やっぱ、中村もそう、そう思っていたのだな。あぁ良かった~、俺だけじゃなくて。俺も何かずっとドキドキしちゃって。こんな中に入って、俺、大丈夫かと。 ほら、俺もずっと野球部だったから、男女が近くにいる光景が凄く新鮮で、何か制服姿とは別の…… そう何とも言えないなんか学園ドラマの一部に入り込んでいるような、変な感覚に(おちい)っていたのだ。」
 そうか、それで、田中は見学中とても静かだったのか。ただ、山本は冷たく、
「俺、中学が卓球部だったからなぁ。卓球は、男女一緒が普通だったから、別に何とも思わないけど。ナベは?」
「俺もバレー部だから。別に…… どうすっかなぁ。まあ、思っていたよりもハードそうだったけど、まあ、他に入りたい部もないからな。それに、お前らの初々しい姿見るのも面白そうだしな!」
「ま、まあ、すぐ慣れるからな俺は。じゃあ、週明けまでにグループチャットで入部意思を確認するか。」
そう言って、カバンの中に手を入れると、小川にメッセージを出した後にカバンに入れたはずのスマホが入っていない。もしかしたら、あの時に机に置き忘れたのかもしれない。
「あれ、あれ、なんか、俺、スマホ教室に忘れたみたいだ。ちょっと、みてくるわ。先、帰っていて。」
「おう、また来週な!じゃ」
 そして、俺が教室に入ろうとすると、後ろから
「中村君?」
それは、まったく聞き覚えのない女の子の声で、これから始まる新たな物語の序章を告げるかのようであった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み