対決

文字数 1,104文字

 神谷希咲。

 昨日、保管室の調査の後、教師や生徒に聞き込みを行った際に気になった人物だ。教師曰く、恐ろしく頭のキレる少女だそうだ。ただ学習に関してはあまり真面目さは感じられないという。もちろん成績が悪い訳ではない。真面目に勉強などしなくても学年トップを維持するのは容易いということだ。
 八木はこの生徒のプロフィールに惹かれてしまった。彼女が生まれてすぐに両親は離婚。父親が引き取るも5年前に殺害されている。現在は叔父が面倒を見るということになっている。「なっている」というのは、実際はあまり家に帰らない人だからだろう。
 ここまで負のエピソードを聞けば同情したくなるのは自然なことだ。だが八木はどこかに引っ掛かりを覚えている。
 中学生が犯人であるはすがない。冷静に考えれば誰でも導くことができる答えだが、頭のどこかでその可能性を拭いきれないことに彼は気づいていた。


 秋本がコンビニから帰ってきた時、八木は眉間に皺を寄せ、自分のデスクに座っていた。
 左手の人差し指で下唇を摩っている。彼が考え事をする時の癖だ。こうなるとしばらくは話しかけない方がいい。というより話しかけても無駄だ。
 人は何かに集中する時、他の感性が一時的に大きく鈍る。何かに熟考してみるといい。周囲でどんな音が鳴っていたか、恐らく覚えていないはずだ。
 しかし彼のそれは人の域を超えたものだった。神谷希咲が超人的な頭脳を持っているが、八木耕作もまた天才と呼称される人種である。他人に測ることのできないほどの集中力を有している。それは同時に、他の感覚を他人よりも強く締め出すということだ。「シンキングスリープ状態」と秋本は勝手に呼んでいる。


 秋本がコンビニで買ってきたおにぎりとコーヒーで腹を満たしていたら、八木が話しかけてきた。

「お前はこの少女、どう思う?」

「確かに面白いですが、この件とは無関係だと思いますよ。発火した時点で彼女は他の生徒と同様に授業を受けていましたし」

「だが相当頭がいいらしいじゃないか。だとしたらアリバイを作りつつ殺す方法も考えついたんじゃないのか」

「発火元は田口真理がタバコを吸った時に使用したライターだと鑑識から報告がありました。彼女は日常的にあの教室に出入りしていましたし、タバコも吸っていたようですよ」

 確かに現状、神谷希咲を疑うに値する証拠は何一つないのだ。やはり彼女は白なのか…

 昨日、あまり睡眠を取れていなかったからだろうか、少し頭痛がしてきた。彼はこのまま少し眠ることにした。
 どちらにせよ、このまま考えていても答えは出まい。そう思いゆっくり目を閉じた。
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