接触
文字数 1,586文字
八木の前に一通の葉書のコピーがある。そしてこの事件を扱っている刑事数人が大きなデスクを取り囲んでいる。
「新人さん、これどう思う?」
先日捜査班に加わった三浦基樹に質問してみた。以前に一度所轄と合同捜査した時にいた男だ。その様子を見る限り、かなりの信頼が置かれているようだった。実力を測る意味でも回答を期待していた。
「内容を確認した訳ではないので断定は出来ませんが、恐らく犯人からの警告のようなものではないかと…」
実は3日ほど前に動きがあった。なんと、黙秘していた少女の内1人が口を割ったのだ。その供述は捜査一課を驚かすには十分だった。
寺田という少女がいうにはタバコを吸った数秒後、田口真理が呻き声をあげ倒れたそうだ。そして田口に気を取られている隙にタバコの火が箱に引火したという…。
八木の推測は外れていなかった。
しかし事件はこれで終わらなかった。この翌日、近くの河原で寺田少女の遺体が発見されたのだ。彼は公平党の一味に見当をつけている。やはり喋られると困る内容だったのだろう。もう1人の少女は恐怖で引きこもっているそうだ。まあ当たり前だろう。自分と同じ境遇の人が殺されたのだ。
そして現在。つい数分前、何者からか葉書が届いた。犯人からの可能性も考慮し、指紋などを鑑識にかけている。今はその結果を待っているところだ。
チクチクと時計の秒針が音を発している。いつも賑やかだったので、たった今気づいた。
八木も三浦の意見に近かった。そして付け加えるなら、この鑑識からは何も出ないと言いたい。ここまで捜査して全く手応えがないのは久々だった。犯人は自分から送った葉書に証拠を残すようなドジなど踏まないだろう。何かあればメッセージか罠だと考えるべきだ。
ドタドタと駆ける音がして、鑑識課の職員が入ってきた。皆、一斉に振り返る。
「この葉書からは何も検出されませんでした」
想像していた答えだ。問題は何が書いてあるかだ。
『お前たちが捜査の手を緩めないならば、2名を除き死人の山ができるだろう』
これだけだった。
まず口を開いたのは三浦だ。
「この文は短いですが、2通りに読み取れます」
「どういうことですか?」
と秋本。
「我々が捜査を止めた場合とそうでない場合をそれぞれ考えてみてください。捜査を止めても2人死ぬという考え方と、捜査を続けても2人は確実に助かるという考え方があります」
その場にいた全員が「あっ」と声をあげた。
「個人的には前者の解釈で問題ないと思うんだが」
三浦の頭の良さはよく分かった。ならば同意見だろう。
「なぜですか?」
と聞く秋本に
「質問しかしてないぞ(笑)」
とヤジが飛ぶ。
「まず、殺す2人を選ぶ方が救う2人を決めるより簡単だからです。これは万人に言えることでもあります。それと、後者はそもそも警察に伝える意味がないからです。大多数を助けるならば前者を取らなければなりませんし。さすがに犯人も、我々がそこまでバカじゃないことは知っているはずです」
三浦が丁寧に解説してくれたおかげで秋本も理解できたようだ。スッキリした顔でうなづいている。
「どちらにせよ、これは警告文な訳だ。当然従わない方針でいくが問題はないね?」
全員が首を縦に振っていることを確認し、葉書をビニール袋に入れ机の引き出しへしまった。捜査班員もそれぞれ各自のデスクへ散って行った。
それにしても2人というのは誰のことだろう。1人は想像に難くない。田口充だ。娘の殺害が彼への復讐とするなら、彼自身へ刃が向いてもおかしくない。むしろそう考えて当然である。とりあえず彼に厳戒態勢を敷くべきか…。運が良ければ彼を殺しに来たところを逮捕できるかもしれない。彼は電話を手に取った。
「新人さん、これどう思う?」
先日捜査班に加わった三浦基樹に質問してみた。以前に一度所轄と合同捜査した時にいた男だ。その様子を見る限り、かなりの信頼が置かれているようだった。実力を測る意味でも回答を期待していた。
「内容を確認した訳ではないので断定は出来ませんが、恐らく犯人からの警告のようなものではないかと…」
実は3日ほど前に動きがあった。なんと、黙秘していた少女の内1人が口を割ったのだ。その供述は捜査一課を驚かすには十分だった。
寺田という少女がいうにはタバコを吸った数秒後、田口真理が呻き声をあげ倒れたそうだ。そして田口に気を取られている隙にタバコの火が箱に引火したという…。
八木の推測は外れていなかった。
しかし事件はこれで終わらなかった。この翌日、近くの河原で寺田少女の遺体が発見されたのだ。彼は公平党の一味に見当をつけている。やはり喋られると困る内容だったのだろう。もう1人の少女は恐怖で引きこもっているそうだ。まあ当たり前だろう。自分と同じ境遇の人が殺されたのだ。
そして現在。つい数分前、何者からか葉書が届いた。犯人からの可能性も考慮し、指紋などを鑑識にかけている。今はその結果を待っているところだ。
チクチクと時計の秒針が音を発している。いつも賑やかだったので、たった今気づいた。
八木も三浦の意見に近かった。そして付け加えるなら、この鑑識からは何も出ないと言いたい。ここまで捜査して全く手応えがないのは久々だった。犯人は自分から送った葉書に証拠を残すようなドジなど踏まないだろう。何かあればメッセージか罠だと考えるべきだ。
ドタドタと駆ける音がして、鑑識課の職員が入ってきた。皆、一斉に振り返る。
「この葉書からは何も検出されませんでした」
想像していた答えだ。問題は何が書いてあるかだ。
『お前たちが捜査の手を緩めないならば、2名を除き死人の山ができるだろう』
これだけだった。
まず口を開いたのは三浦だ。
「この文は短いですが、2通りに読み取れます」
「どういうことですか?」
と秋本。
「我々が捜査を止めた場合とそうでない場合をそれぞれ考えてみてください。捜査を止めても2人死ぬという考え方と、捜査を続けても2人は確実に助かるという考え方があります」
その場にいた全員が「あっ」と声をあげた。
「個人的には前者の解釈で問題ないと思うんだが」
三浦の頭の良さはよく分かった。ならば同意見だろう。
「なぜですか?」
と聞く秋本に
「質問しかしてないぞ(笑)」
とヤジが飛ぶ。
「まず、殺す2人を選ぶ方が救う2人を決めるより簡単だからです。これは万人に言えることでもあります。それと、後者はそもそも警察に伝える意味がないからです。大多数を助けるならば前者を取らなければなりませんし。さすがに犯人も、我々がそこまでバカじゃないことは知っているはずです」
三浦が丁寧に解説してくれたおかげで秋本も理解できたようだ。スッキリした顔でうなづいている。
「どちらにせよ、これは警告文な訳だ。当然従わない方針でいくが問題はないね?」
全員が首を縦に振っていることを確認し、葉書をビニール袋に入れ机の引き出しへしまった。捜査班員もそれぞれ各自のデスクへ散って行った。
それにしても2人というのは誰のことだろう。1人は想像に難くない。田口充だ。娘の殺害が彼への復讐とするなら、彼自身へ刃が向いてもおかしくない。むしろそう考えて当然である。とりあえず彼に厳戒態勢を敷くべきか…。運が良ければ彼を殺しに来たところを逮捕できるかもしれない。彼は電話を手に取った。