第6話 秋風さらりと

文字数 1,011文字

秋風さらりと

○幸子の東京自宅、居間

 幸子は夫を亡くした。まだ四十代の若さで未亡人になった。幸子は、居間で夫の遺体が眠る棺桶の前で悲嘆に暮れ、通夜の間、弔問客を迎えていた。

 一週間前...
 「ほら、頑張って!もうちょっとなのよ。もう少しでワタシもいけるんだから❤️」
 (早くしないと、また中折れしちゃう。もう性能の悪い○チンチンだわ)

 夫の良夫は、都内中堅企業の中堅サラリーマン、日本の企業戦士として厳しいビジネスシーンで闘い、疲れ切って四十代になってめっきり夜が弱くなっていた。

 四十代に入り、夫が弱くなってきたのを境に幸子の方は俄然性欲が強くなり、毎晩のように夫に跨っては激しく腰を振った。

 「ほら、もっと激しく下から突き上げながら、愛してる❤って言ってくれないとワタシがいけないでしょう!」
 幸子は、腰のグラインドを加速させた。

 「あ、愛してる...」
 (毎晩が地獄だ。会社も地獄、家庭も地獄、もう限界だ...)

 「あーん、いい❤️」
 (やっとこさ、いけた。何日ぶりかしら、全く性能の悪い中古○ンコ)

 「うっ!」
 (さようなら、親類縁者の皆さん。もう終わりにします)
 
 良夫は逝った。そして魂が昇天した。過労の末の心臓発作であった。
 

○リンゴーン♫

 弔問客がやって来た。大学時代の友人涼子だ。

 夫の良夫は、大学時代に涼子のボーイフレンドであった。幸子がこれに接近して掠奪した、いわば掠奪婚であったが、「うん、いいけど...」と心よく許してくれたのであった。

 「今回は、本当に残念な人を亡くしましたね」
 (ふん、掠奪なんかするから自業自得よ)
 涼子は、深刻な表情で悔みを述べた。

 「うん、ありがとう。友人のあなたの言葉が一番胸に響くわ」
 (流石に親友だわ)

 「今日は、忙しい用事があるからお焼香だけ済ましたらすぐに帰るわね」
 (建売とはいえ、一軒家が腹立つわ)

 「うん、ありがとう。天国の主人もきっと喜ぶわ」
 (忙しい中、来てくれたんだ)

 (誰が天国だって、ふざけるなよ)
 涼子は、すんでのところで罵声を呑み込み、取り急ぎ焼香をすませると空の香典袋を霊前に供え立ち去った。
 (ワタシを捨てたんだ。地獄行きさ)

 幸子は、涼子が見えなくなるまで玄関先から見送った。
 (やっぱり持つべきものは、友人だわ)

 
 
 
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