第60話 福利厚生

文字数 1,995文字

 オウルゼロワンに騎乗していたのはリリィだ、セーフハウスから直接飛んできていた。
 リリィが牽制しているあいだにカカポにタンデム乗騎していたローレルと赤髪の猛禽がボートに着陸した。
 
 ドンッ 長身の女?がボートに降り立つのが見えた、背には槍?を担いでいる。
 「一人!?だと、なんのつもりだ」

 (こちらはリーベン国海軍だ、この船は拿捕する、抵抗すれば容赦なく攻撃する!乗員は甲板に出て腹ばいになれ!)
戦闘ボートのスピーカーが鳴っていた。
 空中をスライドするようにオウルゼロワンが監視している、銃口が絶えず向けられていた。
 「船長たちはどうした!?
 操舵室から周りを確認すると、デッキに伏している船員たちが見えた、船長たちは戦闘を始める気など鼻から無かった、戦闘ボートが見えた時既に投降に向けて動いていたのだ。
 「なんてことだ!!
 船外拡声器の電源を入れるとトークボタンで外に叫ぶ。
 「こちらには人質がいる、航路を空けろ、空けなければもろとも自爆するぞ!」
 
 (そう言うと思ったわ、でも嘘は通じない)
頭の中に声が響いた。
 「なんだこれは、頭の中に直接???」
 (人質も自爆装置もない、投降しなさい、逃げられはしないわ)
「なぜ分かる?リーベンの新兵器か!?
 (あはははははっ、誉め言葉ね、でも不正解、思いっきりアナログだもの)

バタンッ ドアが弾かれると同時に赤い風が吹き込んできた。
 バオッ 人だった、あまりに低い姿勢で早い、拳銃を抜くより早く間合いに入られた。
 シュバッ 銀色の笹の葉が舞った、通り過ぎた後に血の花が咲く、何が起こったか分からずフッジャはポカンと自分の右手を見た。
 指が五本とも無かった。
 バタタタッ 宙に舞っていた指が床に落ちる。
 「ぐおっ!」熱い痛みが遅れてやって来る。
 スッと影が立ち上がる、フッジャよりも頭一つ大きく、燃えるような赤い髪を束ね、反面その目は冷たくフッジャを見下ろしている。
 「ごめんなさい、親指と薬指だけ切るつもりだったのに全部切れちゃったね」
 「ぬぬ、女か?」
 「なんか引っ掛かる言い方ね」
 「くそっ、何なんだお前たちは!」
「殺しはしない、いろいろ聞きたいこともある」
 「舐めるなよ、女!」
 血だらけの掴めない手で掴みかかる、女はフッジャの動作の初めを見て動いている、触れそうで触れない、数センチの距離が縮まらない。
 「やだ、触らないで、汚れるじゃない!」
 「くっ」
 バタバタと追う足が揃っている、そんな足で達人に触ることは出来ない。
 手を伸ばしても既にそこにはいない。
 「あなた武人じゃないわね、母上に笹貫をお借りしてきたのに意味なかったわ」
 「なんの話だぁー!!
 「シッ!!」バシッ バシッ ドゴォッ
 短槍ではなく鉄拳が飛ぶ、左!左!右! 鋭く!短く!早い! ショートストロークの拳に体重が乗る。
 派手さはないが拳が硬い、グローブは鉄心入りだ、一発で骨が砕ける。
 「ぐっがああっ」
 「脆いわね、ディアボロスは強かったわよ」
 「ばっ、XxXWW がっ、ぎゃっ」
 「あれっ、顎砕いちゃった!? やばっ、リリィ姉に叱られちゃうじゃない!」
 這いつくばったフッジャは戦闘不能となっていた。
 「はい、確保、確保」後ろ手に手錠を掛け襟を掴むと軽々と引き摺る。
 空に舞うオウルゼロワンのライトの前にフッジャを放り出す。
 リリィに手を振ると、直ぐに敬礼が帰ってきた、船員たちは既に捕縛が終わっている。
 「リオ姉さん!」
 ローレルが駆け寄る。
 「ごめん、顎に入れちゃった、尋問お願いしなきゃならないかも」
 「お安い御用です、どうせ嘘つくでしょうし」
「タルシュ帝国の武人かと思っていたのに肩透かしもいいとこよ」
 「リオ姉さんが相手をする必要はなかったかも」
 「それにしてもすごいクルーザー、ニシが没収するなら航空隊の福利厚生で使いたいわね」
 「それ名案です、ぜひお願いします」
 「震電の対艦攻撃にしなくてよかったわ、30mmで攻撃してたら沈没してたわね」
 「この船で遊びにいける日が来るといいわね」
 「カカポ隊のみんなで・・・楽しいだろうな」
 「むっ、その時は声かけてよね、何がなんでも参加するから」
 「ええー、どうしよう、お酒足りなくなっちゃう」
 「人を怪物みたいに言わないで、そんなに飲まないわよ」
 「嘘です、底なしじゃないですか」
 「私の酒量と平和は比例関係にあるからね、そんだけ平和が近いってことさ」
 「そうですね、そう信じます」
 パンッと二人は手を合わせた。

 ドン・フッジャの逮捕によりマフィア・テッド・カドゥーナは事実上壊滅した、今後尋問により関連する団体や個人の特定がされていく。
 地下に潜った犯罪の種もベータロイン事件同様、国内から一掃する。

 「あとはフェイレルね」 二人はサガル神山の五百年変わらない威容に目を向けた。
 
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