第31話 テッド・カドゥーナ

文字数 2,436文字

リーベン国内に暗躍するマフィアの中に竜子の斡旋と仲介を行う組織がある、魔呪術宗教の横行する地から文明国、特に人権意識が高く人種差別、宗教差別のないリーベン共和国への難民流入は多い。
 国内の需要を満たせなくなった人身売買組織はリーベンのマフィアと組むようになっていた。

 マフィア・デッド・カドゥーナ、十年前のベータロイン事件以来、内閣情報調査室を中心としたマフィア壊滅作戦を潜り抜け活動を縮小しながらも組織を維持してきた、ベータロインに替わるシノギの中心が人身売買だ。
 流入してくる難民の中から竜子を探し出し、北の魔呪術団体へ売却する、手元に置くことはしない。
 リーベン国内は監視の目が厳しい、足が付けば厳しい取り締まりに合う、逮捕されれば厳罰がまっている。
 リーベンは犯罪者に容赦がない、人身売買で逮捕有罪となれば即時死刑執行だろう。
 組織の長をドン・レジーム・フッジャという男が仕切っている、骨太で背の高い禿げた男だ、眉毛も薄く落ちくぼんだ眼下に異様に光る金の目が光っている。
 テッド・カドゥーナは当局の追跡を逃れるために決まった事務所を構えていない、組織の実態がつかめない幽霊のような組織だ。
 内閣情報調査室がブラックリストの一桁ナンバーに指定する危険団体。

 ワンルームの狭い部屋、スパイシーなお香が焚かれている室内の奥にフッジャのデスクがある、電話と書類、ファイルが置かれているが角々をピッタリに合わせ、書類もはみ出すことなく積まれている、そして磨き込まれた机には埃一つ落ちてはいない、フッジャの人間性を表している。
 集った部下は四人、男二人、女二人だ。
 スーツにネクタイを締め、手首には高級時計が光る、女もタイトなスーツスタイルだが崩れた感じはしない、高級な銀行員のような雰囲気だ、当然、ソファに背を付けることなどしない。
 しかし、その胸のあたりの膨らみは拳銃を飲んでいるに違いなかった。
 
 「さて、諸君、DB(ドラゴンブラッド、竜子の隠語)のストックが無くなりました、補給の件はどうですか」
 黒縁眼鏡の男が手を上げる。
 「ハンターチーム、グレイです、難民の中から二匹確保しました、しかし品質はCクラス、肌が褐色です」
 次に女の一人が手を上げる。
 「生産チーム、ポッターです、先月の出来高が五匹、その内、鱗の発現が二匹です、出荷まで三年を予定しています、色はやや白、Bクラス」
 その脇にいた女が手を上げる。
 「営業チーム、ルチルですオーダーCクラス3件、Bクラス3件、でAクラス1件、ですがストックがありません、補充を急いでください」
 最後にサングラスの男。
 「警備チーム、マルスです、ストックヤードを一カ所やられました、申し訳ございません」
 「CICR(内閣情報調査室)、内調の仕業かね」
 「恐らくは」
 「やっかいなお役所ですね、ですが空のストックヤードは重要ではありません、新入荷のCクラス2体、Bクラスオーダーに回してあげなさい、ルチルさん値下げで構いませんから納得させてください」
 「御意」
 「問題はAクラスですね、オーダーはノスフェラトゥ教団の皆様ですね、重要なクライアント様です、早急な納入が必要です、情報はありませんか」
 「マルスより具申いたします、リーベン陸軍に飼っている犬の情報ですが、航空隊にそれらしき者が一人居るようです」
 「ほう、クラスは?」
 「特Aクラス」
 特Aと聞いて他の三人もマルスに注目した、特Aとなれば売却額は言い値だ、デッド・カトゥーナにおいても過去に取り扱いはない。
 「特Aとは大きくでましたね、確証はあるのですか?」
 「はい、以前にラドウというタルシュ帝国系のマフィアがあったのですが、そのストックヤードが竜子の父親に襲撃されて五人一度に解放された事例がありましたが、その内のひとりではないかとの情報です」
 「知っています、ベータロイン事件の直後のことですね」
 ドン・フッジャはデスクからファイルを一冊手に取るとパラパラと捲り、指先でページを指し示す。
 「確かに、五人の中に特Aがいたようです」
 「白金の髪にガッシュ系の白肌、虹色の鱗の女です」
 「完璧な素材、価値が高すぎて売却先が見つからなかったのでしょう」
 「前線に出ている兵士のようです、いつ戦死してしまうかわかりません、拉致の実行は速やかに行う必要があります」
 「どうやら情報の確度は高そうですね、見過ごしてしまうには惜しい素材です、生産チームを除いて対象の拉致計画を今週中に立案してください、リーダーはマルスさん、お願いします」
 「御意」
 「それではまた来週お会いしましょう、集合場所はご連絡いたします」
 「解散」
 全員起立すると、目礼で部屋を出ていく。
 重々しいエンジン音が四つ始動すると、それぞれの方向に向かって消えていった。
 トントンッ ガチャッ ワンルームの奥の部屋の扉がノックと共に開くと背の高が高く面長に黒い肌、白髪を短く刈り込こんだ男が入ってくる。
 その雰囲気は禍々しく一見してカタギではないことが分かるがラリッた頭のチンピラとも違う。
 カポ・ラーテルと呼ばれるこの男はドン・フッジャの副官にして護衛、元タルシュ軍幹部だった経歴を持つ。
 「ボス、今の話、私のネットワークも使って探しますか?」
 「うむ頼みたい、リーベン陸軍を相手にするとなると難民相手の拉致とは次元がことなる、場合によってはウルヴァ部隊の出動を要請することになるだろう」
 「心得ています、最近は素人相手ばかりで兵たちも鈍っていますから丁度よい刺激になります」
 「あくまで作戦は隠密、リーベン新政権は思ったよりも手強い、受け身から攻勢に転じる決断が早い」
 「御意」
 「それでは次のアポイントメントに向かおう」
 「はい、次は新型麻薬チームとの打ち合わせです」

 リーベン国内に残った犯罪組織は少ない、しかし、淘汰され生き残った組織はより狡猾で巧妙、暴力と知力、悪意と欲望を合わせ持っている。
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