第40話 養殖

文字数 2,242文字

 エダの情報はディランを通じてテッド・カドゥーナ 営業チームリーダー ルチルへと上げられた。
 「どう思います?マルスさん」
 「DBの件か、それともブレスガンとかいう玩具のことか」
 「ええ、一応ドン・フッジャに報告を上げましたが、アル・ラーテルさんがブレスガンについては担当するそうです」
 「ラーテルの旦那が?じゃあタルシュがらみか?ウルヴァ部隊の参戦もあるな」
 「道理で俺が呼ばれない訳だ」
 納得して顎に手をやるマルスの顔は渋い。
 警備チームは商品の輸送、隔離、移動の分野で武装した構成員を動員する、その時も基本は隠密、極力暴力沙汰は避ける、事件になれば尻尾を掴まれる可能性が増す、つまらない証拠でも揉み消すのに金がかかる。
 ドン・フッジャのボディガードも兼るラーテルはタルシュの元軍人、ウルヴァ部隊はタルシュ率いる傭兵団だ。
 軍人あがりのウルヴァ部隊は犯罪集団ではなく戦争屋だ、隠密なんてことは関係なく銃を使う。
 大騒ぎの後始末に奔走しなければならないのが警備チームリーダー マルスの役目になっていた。

 考え無しに銃を使うラーテルとマルスは当然仲が良くなるはずもない。
 「よりにもよって対象のBDが玩具を運ぶ、一見、一石二鳥だが返って面倒な事だ」
 「私もそう思います、ウルヴァチームは協調しようというお考えはないでしょうから」
 「超高額商品だ、完全体でノスフェラトゥ教団へは納入したい」
 「犬からの情報、確かでしょうか?」
 「どうだかな、今回は警察だけが相手じゃない、軍とまして内調も相手だ、簡単にいくとは思えない」
 「商品の維持を考えればウルヴァチームもリスクね、彼等の狙いは玩具、こちらの商品の状態を考えたりはしない、最悪穴だらけなんてことになっても気にしないでしょうね」
 「その通り、この狩りは競争だ、我々が先にゴールしなければ二兎を失う」
 「内調は手強い、情報どおりと考えるのは危険だと思う」
 「さすがマルス!私も同意見よ」
 「ルチル、お前はどう考える?」
 「そおねえ・・・」

 二人はリーベン国の地図を見ながら内調の作戦を犯罪者の嗅覚で逆算する。
 港埠頭の倉庫、コンテナが積まれた端に目立たなく駐車したトラックの中、テッド・カドゥーナの移動手段は車両を事務所にしていて一定のヤサを持たない。
 連絡の遣り取りは定時に無線を介した暗号通信、言葉は使用しない。
 必要なときにトラック車両に引かれたコンテナ事務所ごと移動して集合する。

 唯一の不動産が生産チームが管理する病院だ。
 一般的な総合病院、その資本はテット・カドゥーナが有している、勤務している医師たちの中でそれを知る者は少ない。
 地下の一区画、立ち入り禁止区域のその先に竜子を生産する目的で難民を中心とした男女を攫い人工妊娠させている施設がある。
 地上階は地下施設を隠蔽するためのカモフラージュに過ぎない、攫った竜子の収容施設も兼ねている。
 良質な竜子はクローンとして生産する試みも試されている。
 マフィア・テッド・カドゥーナは単なるマフィアを越えている、その組織は一つの巨大企業、多くのフロント企業を抱える反社組織、務めている人間でさえ自分が何の歯車になっているのかを知らない。
 その利益は組織を通じて敵国ナジリスとタルシュ帝国へ流れていく。

 生産チームのリーダーはポッターという、女性としては大柄でグラマラスな体形を強調している。
 明るい栗色に染めた髪は清潔感があり、化粧もネイルも落度がないが全体的に違和感がある。
 声だ、努めてワントーン高い声で話しているが男の声であることが隠しきれない。
 ポッターは女装者だ、その胸も腰も創ったものだった。
 
 「今月の出産予定は五人ね、期待出来そうかしら」
 顔色の悪い女性スタッフが引き攣った笑いで応える。
 「はい、ポッター様、今月の予定者は過去の実績が良好だった者ばかりです、三人は期待できると思います」
 「だといいけど・・・あなたちょっと顔色悪いわね、疲れているんじゃない?」
 「いえ、ちょっと今月はシフトがきつくて」
 「それはいけないわね、ビタミン剤よ、飲んでおきなさい」
 医師でもあるポッターが机から紙袋を出すとスタッフに渡した。
 青い錠剤が詰まっている。
 「あっ、ありがとうございます、Drポッター」
 破顔した女性スタッフは喜々として仕事へ戻っていった。
 「あれは嵌っちゃっていねわね、もう逃げられない」
 MDMAイブだ、麻薬としても優秀だが竜子を生産するうでも欠かせない、母体に使用すると竜子の生まれる確率が飛躍的に向上することをポッターは発見した。
 デッド・カドゥーナは麻薬で人を縛り、竜子ビジネスの生産から販売までを独占しようとしていた。

 新生児室には出荷を待つように竜子が無菌を保たれ寝かされている。
 「養殖なんて失礼よね、品質は天然物よりこっちの方が断然上よ」
 隔離されたガラスの向こうから暗い笑顔を向けるポッターの欲望、永遠の若さと美を手に入れることだ。
 竜子の血には可能性がある、実はポッター自身が魔呪術宗教の信者だ、ただ闇雲に信じているわけではない、医師らしく科学的な事例と検証を得て確信している。
 魔族の血がもたらす身体的能力の向上、寿命の延長、美しい肌と髪、ポッターが求めるものがそこにあった。

 「この子は渡したくはないわねぇ、未開な連中にはもったいないわ」
 ポッターが見ていたのは、白い肌にプラチナブロンド、妖精のような女兵士、フェイリルの写真。
 
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