第23話    白金の髪

文字数 2,420文字

(サン・・・ニィ・・・)

!!
 ゲイル少尉が真っ先にケーリアンを捨てて飛び出した。
 「てめぇ!!
 残った者も転げるように外に出ると一目散に洞窟へ走り出す。

 (イチ)

スドドドドドッ ガシャガシャ ガンッ ドンッ 

 リリィ機とフェイリル機による掃射がウニモグを一瞬で屑鉄に変えた。

 「任務完了、航空隊の射線を空ける、予定を変えてレゾリュー基地に一度降りるぞ」
 
 ガアアアァァァァアッ 山脈の高空から十八気筒の咆哮が降ってくる、航空爆撃の二巡目が始まる。
 「お嬢様、障害は排除、ケーリアンは始末しました」
 「リリィ姉、サンクス、後で奢るわ!」
 「およびません、ツケは回します」
 「なに?ツケって」
 「いいえ、こちらの事です」

 障害のなくなったチーム・ラプトルは速度を落とし、慎重に的を狙う。
 洞窟内部には爆破音と共に大量の粉塵が舞い散る、爆発の度に内部の岩盤が罅割れ大小の破片が落ちてくる。
 暗闇の中で生き埋めになる恐怖が兵士を恐慌に駆り立てた。
 
 洞窟の壁の中でゴリゴリと音がする。
 「おいっ、何か音がしないか!?
 「爆発音で耳をやられた、何も聞こえない」
 
 キィキキキキッ キャアアアアアアッ

 「!!
 狂女の金切声、悲鳴が聞こえた。
 「ここは悪魔の巣だ・・・」
 絶望が兵士たちを飲み込んでいく。

 リリィ達は機を一端レゾリュー基地に降ろすとリオ達の航空ショーを見上げていた。
 「また腕を上げられましたな、お嬢様」
 腕を組み高空から駆け下りてくる震電を見上げるリリィは満足そうだ。
 夕暮れの青が再び舞い降りようとしてきている、航空隊の飛行限界だ。
 作戦を終えて高高度を帰投していくチーム・ラプトルに見える筈もない手を振る。

 ローレルは疲労の色が濃い、エンパスを出力で使用するのはマラソンと同等の体力が必要だった。
 記憶の海に垣間見える魂はエンパスを兵器と呼べるまでに強化した姿が見える、今の自分では到底及ばない、なにかが足りない。
 この力をもっと使いこなすことが出来れば国にとって、仲間たちにとって有益なものになると思ってはいても、他人の意識全てが流れ込んでくれば、その波に自分は呑まれてしまうだろう。
 自分という意識を保つ自信がなかった、今でも流れ込んでくる意識のどれが他人でどれが自分の感情なのか分からなくなる。
 記憶の海が見せる結末は決して幸福な物ばかりではなかった。

 白金の髪が夕日のオレンジを受けて光っているのが遠目にも分る、フェイリーだ、彼女がチヒロが狙撃隊と共に帰還する斜面を見ている。
 「無事だったんだな・・・」
 チヒロはフェイリーから預かった時計を見た、傷をつけないように袖で隠す。
 「あれ!?あのプラチナの髪、昨日の娘じゃないか」
 狙撃手の一人が基地の城壁にたつ小さな影を指さした。
 「そうだ、コーンスネークの姉ちゃんだ」
 「昨日の今日で作戦に参加したのか?タフだなー」
 「昨日?なにかあったのか」
 「いや、昨日ローレル副隊長と二人が弾薬を配達してくれたんだが、最後に高射機銃に狙われているところ、あの姉ちゃんがウィングスーツで飛び回って囮になったんだわ」
 「おかげで三機とも着陸できて俺達は助かったんだ」
 「ただなぁ、パラシュートがあるわけじゃないのに、どうやって降りるのかと思ったら飛行機みたいに高度を下げたあと降りるには降りたけど・・・」
 「けど・・・?」
 「当然相当なスピードが出ているから止まれない、転げて最後は壁にドンッ、ぶつかってやっとこさ止まった、普通死んでる」
 「・・・」
 「大けがしているかと思ったら本人ケロッとしてる、たまげたね」
 「でも、飛行服はボロボロであちこち破けちまって見ていられなかった」
 「彼女が囮になってくれなかったら三機のうち一機は撃墜されていただろうな、今基地が無事なのは彼女たちのおかげだ」
 「今朝帰ったばかりなのにとんぼ返りしてくるとは相当な強さだ」
 「我が国の女は強いな、国が発展するわけだ」
 
 強い?確かに身体的な能力についてフェイリーは常人の域を遥かに越えてリオ隊長に近いのではないかと思わせる、だが・・・。
 彼女の自我は固い殻に閉じこもって目覚めるのを拒絶している、なにがあったのかは分からない。
 無表情なコーンスネークは感情のない機械のように必要があれば簡単にその命を差し出してしまいそうな気がしていた。
 自分のために誰かが傷つくことを極端に恐れている。
 彼女の背中の鱗のような痣、傷ついたその背中に触れた瞬間、チヒロは覚醒にも似た感覚を覚えた。
 (知っている、この魂を知っている)
魂の還流は百パーセント同じ魂を産まない、海に戻った一滴は混じり合い、それぞれ違う魂となって現世に戻る。
 でも変わらないものもあるのではないかと思う。
 誰もが同じ記憶の海を見ているわけではないのだから。
 チヒロは覚醒者ではない、覚醒すればこの既視感もはっきりするのだろう、でもと思う。
 覚醒者はその人生を記憶に縛られることになる。
 あらたな視点を失い、記憶の続きを生きなければならない。
 覚醒者のほとんどは、大事な人を失ったままの孤独な時を生きている。
 時の牢獄、覚醒者の中にはそう呼ぶものもいた。
 リオ大佐とリリィ少佐、ニシ長官たちのよな事例は稀だ。
 フェイリーは特別な存在だと魂がいう。
 彼女の魂を開放しろ、自分の魂に命じられている気がする。

 彼女の笑った顔が見たい、その声が聞きたい。
 その強い想いに駆られてチヒロは山岳の斜面をレゾリュー基地に急いだ。
 
 レゾリューの通信員が血相を変えて走り寄ってくる。
 「急報!急報!リリィ少佐、105補給基地が襲撃を受けています」
 「!?
 ローレルとフェイリーがすぐさまヘルメットを装着する。
 「なに、ナジリス兵がどうやってあそこまで?」

 「違います、人ではなく山脈から現れたモンスターだと言っています」
 「なんだと!?
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