第10話
文字数 1,202文字
翌日新しく始めたアルバイトから帰ってきてビールを飲んでいると案の定、松井さんが訪ねてきた。最初は何気ない話をしていたが、急に松井さんが昨日の事に触れてきた。
「昨日女の子が来てたでしょう?」
と言うと、松井さんはぼくの飲みかけのビールを一気に飲み干した。
「ああ、美味しい。伊藤くんが誰と付き合おうと私が口出しする権利なんてないって分かっているけど、伊藤くんの部屋から女の人の声が聞こえてくるのを聞くのってやっぱり寂しくなってしまうのよね。」
松井さんはうつむいて畳の縁をなぞっている。ぼくは腹を立てていた。このような事態を招いていることに。そして今、何も言うことができないぼく自身に。ぼくは松井さんを押し倒し、服を乱暴に脱がし、荒々しく松井さんを抱いた。ぼくの手に答える松井さんの体が、声が、より一層ぼくを苛立たせた。そしてさらに荒々しくなっていく。これがぼくの生き方だった。このような生き方をいつまで続けていくつもりなのか。獣と化したぼくの体とは裏腹に頭は冴えていて、ぼくはなかなか果てなかった。ぼくは激しく体を動かし続ける中で何かを見つけ出そうとしていた。何度目かのエクスタシーの後、松井さんがぼくに止めるように言ったが、ぼくはそれを無視し動き続けた。なおも哀願を続ける松井さんの声を聞きながら、ぼくは頭の中で、大沢夫人のこと、紀子のこと、小学校のあの男の子のことを考えていた。そして無性に響子に会いたいと思った。そしてそう思った瞬間にぼくは果てた。
松井さんは何も言わず、下着を着け、服を直し、部屋を出て行った。ゴミ箱が倒れていた。
夏休みが終わりを迎える頃、ぼくは郷里から帰ってきた。部屋に入り、バックを投げ捨て座り込むと、まずは長旅の疲れを癒やすかのようにタバコを吸った。そこへ人が訪ねてきた。ぼくは立ち上がるのも面倒だったので、座ったままで
「どうぞ、空いていますよ。」
と言った。するとドアが開き、見知らぬ女の子が顔をのぞかせる。
「こんにちは。隣に引っ越してきた富田です。」
「えっ、隣ってどっち?」
「203号室ですけど・・・」
203号室と言えば松井さんの住んでいた部屋だ。ぼくは驚愕を隠せぬまま
「あっそう。ぼく伊藤って言うんだ。君、学生なの?」
「そうです。」
「何年生?」
「1年生です。今まで寮にいたから一人暮らしなんて初めてで。」
彼女は初めてのひとり暮らしのうれしさを隠しきれず、それでいて少し恥じらいを見せながら
「また、いろいろ分からないことを教えてください。これ、ほんの気持ちだけですが。」
と包装紙に包まれた小箱を差し出した。ぼくはそれを受け取りながら
「ありがとう。また分からないことがあったら聞いてね。」
と答える。
「それじゃあ。」
彼女はドアを閉め出て行った。
松井さんが引っ越していったことはぼくに安らぎを与えたが、その反面、またしても根本的解決にならない結末に対し、苛立ちと絶望感を覚えた。
「昨日女の子が来てたでしょう?」
と言うと、松井さんはぼくの飲みかけのビールを一気に飲み干した。
「ああ、美味しい。伊藤くんが誰と付き合おうと私が口出しする権利なんてないって分かっているけど、伊藤くんの部屋から女の人の声が聞こえてくるのを聞くのってやっぱり寂しくなってしまうのよね。」
松井さんはうつむいて畳の縁をなぞっている。ぼくは腹を立てていた。このような事態を招いていることに。そして今、何も言うことができないぼく自身に。ぼくは松井さんを押し倒し、服を乱暴に脱がし、荒々しく松井さんを抱いた。ぼくの手に答える松井さんの体が、声が、より一層ぼくを苛立たせた。そしてさらに荒々しくなっていく。これがぼくの生き方だった。このような生き方をいつまで続けていくつもりなのか。獣と化したぼくの体とは裏腹に頭は冴えていて、ぼくはなかなか果てなかった。ぼくは激しく体を動かし続ける中で何かを見つけ出そうとしていた。何度目かのエクスタシーの後、松井さんがぼくに止めるように言ったが、ぼくはそれを無視し動き続けた。なおも哀願を続ける松井さんの声を聞きながら、ぼくは頭の中で、大沢夫人のこと、紀子のこと、小学校のあの男の子のことを考えていた。そして無性に響子に会いたいと思った。そしてそう思った瞬間にぼくは果てた。
松井さんは何も言わず、下着を着け、服を直し、部屋を出て行った。ゴミ箱が倒れていた。
夏休みが終わりを迎える頃、ぼくは郷里から帰ってきた。部屋に入り、バックを投げ捨て座り込むと、まずは長旅の疲れを癒やすかのようにタバコを吸った。そこへ人が訪ねてきた。ぼくは立ち上がるのも面倒だったので、座ったままで
「どうぞ、空いていますよ。」
と言った。するとドアが開き、見知らぬ女の子が顔をのぞかせる。
「こんにちは。隣に引っ越してきた富田です。」
「えっ、隣ってどっち?」
「203号室ですけど・・・」
203号室と言えば松井さんの住んでいた部屋だ。ぼくは驚愕を隠せぬまま
「あっそう。ぼく伊藤って言うんだ。君、学生なの?」
「そうです。」
「何年生?」
「1年生です。今まで寮にいたから一人暮らしなんて初めてで。」
彼女は初めてのひとり暮らしのうれしさを隠しきれず、それでいて少し恥じらいを見せながら
「また、いろいろ分からないことを教えてください。これ、ほんの気持ちだけですが。」
と包装紙に包まれた小箱を差し出した。ぼくはそれを受け取りながら
「ありがとう。また分からないことがあったら聞いてね。」
と答える。
「それじゃあ。」
彼女はドアを閉め出て行った。
松井さんが引っ越していったことはぼくに安らぎを与えたが、その反面、またしても根本的解決にならない結末に対し、苛立ちと絶望感を覚えた。