第11話

文字数 1,527文字

            11,
 曝髑髏そして首の無い骸は口々に男を罵った、そして、自分達だけではない、あの墓地や山には首を絞めて犯され、殺されて穴に埋められ、蛆に食われて髑髏と成って、その頭を犬畜生に踏みにじられ、穴から掘り出されて猪に食われた女は他にももっといる、それが証拠に夜な夜な女達の、悲しい悔しいと呻き泣く声が闇夜に聞こえると訴えた。

 髑髏や首の無い骸が男を激しく罵る間、男は、それでも顔色一つ変えず、素知らぬ気に顔をそむけていた。百合への裏切りの罪を責められて、一々、否定し、反論していた、反抗的な態度は何故か見せなかった。
 その百合は、髑髏や骸の、我が最愛の男、藤原広足を罵る言葉を聞いて、震えるばかりで、何も云い出せずにいた。ただ、百合の髑髏の、大きく穿いた両の眼から涙が溢れ出ていた。

閻魔大王、男に問う、
「藤原広足、どうだ、この髑髏、骸たちの訴え、覚えはあるか」
「一々、よく出来た話だと感心して聞いておりました。女の名前、またそれぞれが訴えることの何一つ、私に心当たりする物は有りません」
「そうか、まだシラを切るつもり、らしい、が恐ろしい男よ、な。ま、それも、お前には当たり前のことかも知れぬな。議員歴数十年、幾多の疑惑追及もその調子ですり抜けて来たお前だ。それがお前の体に垢のように染みついているのだろう。
 それに、お前が素知らぬ顔でいられるのは、女たちの訴えに何一つ証拠がないと見てのことだろう。だが、勘違いするでない。此処は地上のふざけた裁判所ではない。やったかやらなかったか、などどうでも良い。何度も申す、ここ閻魔庁は、ひととして冒した罪の大小を、その軽重を測る所である。その見極めに証拠など不要である。また、これらの訴え、全て、お前の仕業であることに一切疑いはない。これ、女、百合よ、前へ」
百合の髑髏を餓鬼が持ってきて、大王の前に置いた。
「そなたに問う。曝髑髏、骸となった女たちの訴え、お前は知っていたのではないか?」
「いえ、初めて聞きました。訴えが全て事実なら、とても恐ろしいことです」
「もうひとつ訊く、今、女たちの訴えを聞いた、何れも全て真実だ。それでもそなたは、この男、藤原広足を猶、信じ、この男が受ける罰の身代わりを申し出るか?」
百合は答えなかった。
「それでよい、のだ。ひとなればこそ、愛する男に裏切られようとも、それが事実だと知っても信じたくないのだ。
 ただ、そなたに訊かねばならない。男、藤原広足の犯行は全て、刹那的であり、衝動的である。激しい欲情に耐えられず、手当たり次第に女を犯した、そしてその犯行を隠そうと死骸を墓地に埋めた。女への、いや女体への尋常ならぬ欲情が嵩じて犯行に及んだことは明らかだ。
 しかし、解せぬことがある。何れの犯行も、全て、気絶した女をわざわざ、まるで犬が餌を咥えて巣に持ち還るように、あの墓地に運びこみ、そこで首を絞めて殺し、犬が餌を隠し置くように体を土中に埋めている。
 姦した女をあの墓地に運び込み、そして必ず首を絞めて殺すことが、まるで野犬の本能のように、一つの定まった手順のように行われている。そなたも現に、墓地に連れ込まれ、そこで首を絞められて殺され、土中に埋められた。
 このことから、我は一つの可能性を考える。あの墓地に男は何か因縁があり、首を絞めて殺すのは男にとって何か意味がありはしないか、と。
 そなたに訊ねる、他の犯行は全て行きずりである、だがそなたとは長く付き合った、誰よりもこの男のことを知っている筈だ。この男から、あの墓地との因縁について何か聞いたことはないか?」
「聞いたことはありません」
「では訊く、そなた自身、あの墓地に何か因縁を持たぬか?」
百合は、口籠った。
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