第4話 驟雨

文字数 548文字

 山道を進むうち急に天候が悪化した。
 ゲリラ豪雨で、あっという間にずぶ濡れになり秋のことゆえ体温が瞬く間に奪われていった。
 幸いなことに、稜線に山小屋のシルエットが見えた。
 慌てて駆け込むが、既に夏山のシーズンも過ぎ小屋は無人だった。
 冬場でも避難小屋に使われるからか中は整っており、囲炉裏もあり薪が並べてあった。
 荷物は雨で壊滅的に濡れている。
 よく見ると囲炉裏の端にマッチ箱があった。
 助かったと思い火をつけるべくマッチを一本取り出し、ヤスリ面にこすりつけた。
 だが、いくら擦っても火は起きない。
 奇妙に思い手元をよく見た。
 薄暗い小屋であるから最初わからなかったが、目が慣れて見ると自分が手にしていた物がマッチではないと気付いた。
 それは大きさこそマッチと変わらないが、小さな小さなコケシだった。
 唖然として視線をマッチ箱の方に移すと、箱の中には整然と小さなコケシが居並び、その首が一斉にこちらを向き視線を投げていた。
 驚いてマッチ箱をとり落すと、コケシたちはカラカラと板の間に転げて広がり、そして皆一切に立ち上がると小屋の隅の暗がりに向け駆け出し消えたいった。
 それきりコケシは現れなかったが、雨が止むまで火をつける事も出来ず私は膝を抱え震えていたのだった。
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