□ 二十歳 春⑩
文字数 1,314文字
ギャッ!
思わず電話を投げ捨ててしまった。
電話が何かぬめった生き物のように感じたからだ。それは床の上でもう一度ぶるっと動いて静かになった。
なかなか拾い上げる勇気が出なかった。それは、本能が私に警告している証だと思った。つまり、このメールは見てはいけないってことだ。
大きく息をついて、ようやく拾い上げた。メールの受信箱を見る。
……やっぱり。
私は震えて自由にならない指を騙しだまし、メールを開封した。
先程、警察から、犯人が捕まったと聞きました。これであゆも安心出来るんじゃないかとほっとしています。
「は? 何を言ってるの……」
訳のわからない感情が突き上げるように次のメールを開封する。
これで私への疑いは晴れましたか?
思わず電話を落としてしまい、右足の甲に当たって転がった。足の痛みが私の意識を鮮明にする。
……何を言ってるのか全然分からない。
また電話がブルブルと動いた。拾い上げてメールを開く。
お願いします、弁解する時間を下さい。直接会うのがダメなら電話でいいから。
次のメール。
電話していいですか?
「はあ? イヤだよ」
私は反射的にメールを送った。今はまだ話したくないです。
電話が鳴り出した。表示は思った通り、佐倉慧。
どうしようどうしようどうしよう。
そんなことは考えるまでもない、無視するべきなのに私はブツブツどうしようと繰り返し声を出していた。
いつまでも諦めない。当たり前だ、そういう人間だ、佐倉慧は。
「どうしようどうしようどうしよう」
どうしても無視できそうにない。……本当に私はどうしようもなく馬鹿だ。
「……はい」
「やっとあゆに繋がった……」
声を聞いた瞬間に全身にぞーっと鳥肌が立った。電話を耳に当てたまま私は細かく震えている。
「あゆ……ありがとう、取ってくれて」
お礼なんか言われる筋合いない。本当は無視すべきだった。
「あの、あのね……あゆ?」
「……聞こえています」
「犯人が捕まったって聞いて、もう我慢できなくて電話してしまったよ。良かった番号変わってなくて」
この間もかけてきただろう、何を言ってる?
「さすがに番号変えられてしまったかなと思っていたから。あのお世話係の人、加代さんだっけ、物凄い剣幕で怒っていたから」
饒舌に喋る。この人ってこんなに立て続けに話す人だったっけ。
「……どうして名前を」
知っている?
「あゆがそう呼んでるのを見かけたから。お母さんじゃないことは分かってるからさ、あゆの世話係の人だと推測したの」
「……」
「あ、あの……あのさ、あゆ……なんて言ったらいいか……あの……私、あの日、本当に私はあゆに会いに行こうとしてた……本当だよ、誰にも時間も場所も言ってないし、本当にあゆを騙すつもりとか無かった……」
「……」
「本当なの、信じて、お願い」
「……」
「私もホントに何が起こったのかよく分からなくて、ねえ、信じて、ねえ……あゆ、何か言ってよ」
「……もう、どうでもいいんで。真実には興味ない。……私は……。……もう、関わってこないでくださいお願いします」
「え、あゆ!」
私は電話を一方的に切った。
……これでいいんだ。これで全て終わった。
私は自分に言い聞かせ続けた。
思わず電話を投げ捨ててしまった。
電話が何かぬめった生き物のように感じたからだ。それは床の上でもう一度ぶるっと動いて静かになった。
なかなか拾い上げる勇気が出なかった。それは、本能が私に警告している証だと思った。つまり、このメールは見てはいけないってことだ。
大きく息をついて、ようやく拾い上げた。メールの受信箱を見る。
……やっぱり。
私は震えて自由にならない指を騙しだまし、メールを開封した。
先程、警察から、犯人が捕まったと聞きました。これであゆも安心出来るんじゃないかとほっとしています。
「は? 何を言ってるの……」
訳のわからない感情が突き上げるように次のメールを開封する。
これで私への疑いは晴れましたか?
思わず電話を落としてしまい、右足の甲に当たって転がった。足の痛みが私の意識を鮮明にする。
……何を言ってるのか全然分からない。
また電話がブルブルと動いた。拾い上げてメールを開く。
お願いします、弁解する時間を下さい。直接会うのがダメなら電話でいいから。
次のメール。
電話していいですか?
「はあ? イヤだよ」
私は反射的にメールを送った。今はまだ話したくないです。
電話が鳴り出した。表示は思った通り、佐倉慧。
どうしようどうしようどうしよう。
そんなことは考えるまでもない、無視するべきなのに私はブツブツどうしようと繰り返し声を出していた。
いつまでも諦めない。当たり前だ、そういう人間だ、佐倉慧は。
「どうしようどうしようどうしよう」
どうしても無視できそうにない。……本当に私はどうしようもなく馬鹿だ。
「……はい」
「やっとあゆに繋がった……」
声を聞いた瞬間に全身にぞーっと鳥肌が立った。電話を耳に当てたまま私は細かく震えている。
「あゆ……ありがとう、取ってくれて」
お礼なんか言われる筋合いない。本当は無視すべきだった。
「あの、あのね……あゆ?」
「……聞こえています」
「犯人が捕まったって聞いて、もう我慢できなくて電話してしまったよ。良かった番号変わってなくて」
この間もかけてきただろう、何を言ってる?
「さすがに番号変えられてしまったかなと思っていたから。あのお世話係の人、加代さんだっけ、物凄い剣幕で怒っていたから」
饒舌に喋る。この人ってこんなに立て続けに話す人だったっけ。
「……どうして名前を」
知っている?
「あゆがそう呼んでるのを見かけたから。お母さんじゃないことは分かってるからさ、あゆの世話係の人だと推測したの」
「……」
「あ、あの……あのさ、あゆ……なんて言ったらいいか……あの……私、あの日、本当に私はあゆに会いに行こうとしてた……本当だよ、誰にも時間も場所も言ってないし、本当にあゆを騙すつもりとか無かった……」
「……」
「本当なの、信じて、お願い」
「……」
「私もホントに何が起こったのかよく分からなくて、ねえ、信じて、ねえ……あゆ、何か言ってよ」
「……もう、どうでもいいんで。真実には興味ない。……私は……。……もう、関わってこないでくださいお願いします」
「え、あゆ!」
私は電話を一方的に切った。
……これでいいんだ。これで全て終わった。
私は自分に言い聞かせ続けた。