【四十三】闇夜の雨上がり、仔猫

文字数 754文字


 帰り際、僕と山縣は、途中で降りて、青波警視と別れた。
 青波警視は、そろそろ警視正に昇進しそうだと言って笑ながら帰っていった。

 雨が止んだばかりの歩道は濡れていて、ところどころに水たまりがある。
 僕は山縣の一歩後ろを歩いている。

「ニャア」

 すると鳴き声がした。僕と山縣は、ほぼ同時に立ち止まる。
 見ればゴミ捨て場のところに段ボールの箱があって、そこに黒い仔猫が一匹入っていた。

「ニャア」

 やせ細っていて、手足が棒のようだ。

「行くぞ」
「や、山縣。この仔、このままにしておいたら、すぐに死んじゃうよ……」
「だから?」
「連れて帰っちゃダメかな?」
「あのな。猫を飼ったら、誰が面倒を見るんだ? 俺は捜査で泊りがけで家を空けることもあるし、抜けた毛はどうする? トイレの処理は? 餌は?」
「僕が頑張るから」
「何もできないお前が? お前に命あるものの世話なんかできんのか?」
「頑張る!」
「……好きにしろ」

 こうして僕は、仔猫を抱きかかえた。黒い毛が、雨で湿っていた。

 家に仔猫を置いてから、僕は取り急ぎコンビニに出かけて、必要なものを購入した。
 そして家へと戻ると、山縣が箱にトイレを用意していた。
 僕は目を丸くする。

「猫砂、買ってきたか?」
「う、うん!」

 僕はトイレの砂の袋を取り出した。
 ため息交じりに、受け取った山縣が、それを段ボールに入れた。

 山縣は、小さな猫を面倒くさそうに見ている。

 以後――猫は、山縣にばかり懐いた。

 そして山縣は、面倒くさそうな顔をしつつ、猫を膝にのせていた。
 まんざらでもなさそうで、僕は笑うのをたびたび堪えた。
 控えめに言って山縣は猫を溺愛していた。

 こうして僕と山縣の家には、新たな住人が加わった。
 ただ僕は、少しだけ猫が羨ましかった。
 僕も山縣に、心を開いてもらいたかったからだ。


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