【七】苛立たせる才能と探偵としての才能 ―― でも結局僕は甘い――

文字数 972文字



 僕は運命を感じられないが、どうやら山縣は、僕を運命の助手だと考えているようだ。

 そこだけは、僕も悪い気はしない。

 他者に求められるというのは、誰だってそこそこ嬉しいと感じるんじゃないだろうか。

「じゃ、この依頼……猫探し。僕はそこに行きたいから、いないとダメならついてきてくれるよね?」
「猫? GPS、ついてねぇの? 首輪とかに」
「依頼文には、書いてないけど? 明日とにかく、事情を聴きに行こう」
「……怠ぃな」
「山縣! 今月もまたゼロポイントになっちゃうだろ? お願いだから……!」
「別にポイントなんかなくても俺は気にならん」
「僕が気になるんだよ!」

 僕は常日頃穏やかな物腰だといわれるのだ、山縣が相手だと思わず声を上げてしまう。山縣は僕を苛立たせる才能の方が、探偵としての才能より明らかに優れている。

「分かったよ。だから笑顔でキレんなって……」
「怒りもするさ」
「機嫌直せよ」
「……はぁ。僕、そろそろ寝るね」
「おやすみ」

 こうしてこの日は、それぞれ就寝した。

 翌朝、僕は六時に起きて、朝食の用意にとりかかった。

 本日のメニューとして考えている品は、厚焼き玉子、ほうれん草の胡麻和え、油揚げとねぎの味噌汁、焼き鮭、そして白米だ。僕の実家にはシェフがいるから、料理を作るのも久しぶりだ。だからというわけではないが、山縣の好物ばかりを無意識に作る事に決めた僕は、我ながら山縣に甘いなぁと感じてしまう。

 白米は炊飯器でたく場合と、土鍋でたく場合がある。朝は、炊飯器で予約をする事が僕は多い。ただ山縣は、土鍋の方が好きらしいと分かっていたので、今朝は土鍋だ。焼き鮭はフライパンにクッキングシートをしいて焼き上げてから、飾りと香りづけのために、大葉の上にのせる。油揚げとねぎの味噌汁の匂いがキッチンに漂う頃、僕は厚焼き玉子の準備をした。僕も山縣も、少し甘めの玉子が好きだ。食の好みの一致は、共に暮らす上では重要だと思う。ざるでこした卵液を、専用のフライパンで整形していき、僕は熱がとれてから、均等に切った。輝くような黄色は、それだけで食欲をそそる。ほうれん草の胡麻和えに関しては、昨夜の内に朝を見越して作り置きしておいた品だ。不在時以外は、僕は多くの場合、週末にいくつかの品を作り置きしている。

 それらを僕はテーブルに並べていった。うん、我ながら上出来だ。


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