第1話
文字数 817文字
大学二年生の相田脩介(あいだしゅうすけ)は、都内の古いマンションで一人暮らしをしている。親からの仕送りだけでは家賃と学費でぎりぎりなので、自分でもバイトをしている。サークルには一応入っているが、そんな状態だからろくに参加する余裕がない。学校に行ってバイトに向かい、帰ってくると風呂に入る。短い入浴のあと、買ってきた夕飯を食べる。それが脩介の毎日だった。
明日も早い、もう寝ようと思ったそのときだった。
ふっと気配を感じた。なんとなく眺めていたテレビから目を離し、窓のほうを向いた。そのとき、目の端に入った時計が〇時二十三分を指していたのを、今でも覚えている。
ベランダに面した大きな窓は、カーテンを開けていた。外は、少し靄のかかったような闇が広がっていて、ぼんやりと明るい。
その中に突然、見慣れないものが現れた。白い大きなそれは、上からゆっくりと落ちてきた。
それは女だった。逆さになった一人の女が、まるでばんざいをしているように両手を下に向けて、窓の外を落ちている。ゆっくり、ゆっくりと、窓一面を覆うように。
脩介は目を見開いた。
落ちていく女の顔が、脩介の目の高さと同じになったとき、目と目が合った。女はたしかに脩介を見た。黒い大きな瞳で。脩介も、女の視線にこたえるかのように、覗いてしまった。死へと駆けていく女の目を。
それから女はゆっくりと、下へ落ちていった。脩介は、女の姿が消えるまで身動きできなかった。
どれくらい経ったのか。コップの氷がカランとなった。その音ではっと我に帰ると、急いで窓に近寄り、思い切って開けてみた。初秋の冷たい風が吹きつけてくる。ベランダに出て下を覗いたが、暗くてよく見えなかった。
「そんな……」
脩介は呟いた。自殺だ。女が、マンションの屋上から飛び降りたのだ。
「なんで……」
よりによって、それを目撃してしまうとは。しかも目が合った。落ちる女の吸いこまれそうな瞳を思い出して、脩介は身震いした。
明日も早い、もう寝ようと思ったそのときだった。
ふっと気配を感じた。なんとなく眺めていたテレビから目を離し、窓のほうを向いた。そのとき、目の端に入った時計が〇時二十三分を指していたのを、今でも覚えている。
ベランダに面した大きな窓は、カーテンを開けていた。外は、少し靄のかかったような闇が広がっていて、ぼんやりと明るい。
その中に突然、見慣れないものが現れた。白い大きなそれは、上からゆっくりと落ちてきた。
それは女だった。逆さになった一人の女が、まるでばんざいをしているように両手を下に向けて、窓の外を落ちている。ゆっくり、ゆっくりと、窓一面を覆うように。
脩介は目を見開いた。
落ちていく女の顔が、脩介の目の高さと同じになったとき、目と目が合った。女はたしかに脩介を見た。黒い大きな瞳で。脩介も、女の視線にこたえるかのように、覗いてしまった。死へと駆けていく女の目を。
それから女はゆっくりと、下へ落ちていった。脩介は、女の姿が消えるまで身動きできなかった。
どれくらい経ったのか。コップの氷がカランとなった。その音ではっと我に帰ると、急いで窓に近寄り、思い切って開けてみた。初秋の冷たい風が吹きつけてくる。ベランダに出て下を覗いたが、暗くてよく見えなかった。
「そんな……」
脩介は呟いた。自殺だ。女が、マンションの屋上から飛び降りたのだ。
「なんで……」
よりによって、それを目撃してしまうとは。しかも目が合った。落ちる女の吸いこまれそうな瞳を思い出して、脩介は身震いした。