第4話

文字数 955文字

 布団に座ってテレビをつける。芸人が何かしている。スマホを見る。ニュースをのぞく。昨日の時間に近づいていく。

 はっと、目を覚ました。いつの間にか眠ってしまったらしい。
何かを感じた。時計を見ると、〇時二十三分、きのうと同じ時間だった。
 何かに引き寄せられるようにして、窓に近づいた。まさか、という予感があった。左手が窓に触れる。ガラスが氷のように冷たい。青い手が、背中にすっと触れたような気がした。
 そのときだった。それはきのうと同じように、ゆっくりと、夢の中にいるようだった。
 現実の周りの何もかも、スマホもテレビも引いていった。ただ、触れている冷たい窓ガラスだけを残して。
 最初に、二本の白い腕。それから小さな、青い白い顔。その後ろに、扇のように広がった長い黒髪。そして、闇の中に咲いた大きなお花のような、白いワンピース。
 窓の外に、女が現れた。女は、昨夜と同じように、脩介の前を落ちていく。下へ下へとゆっくりと、映画のコマ送りのように。
目の前でそれを見ながら、脩介は動けなかった。まるで誰かがスイッチを切って、時間を止めてしまったみたいに。
 ガラス一枚を隔てた向こうにいる、落ちる女から、目が離せない。
 脩介と女は、反対だった。脩介は上を、女は下を向いている。そして二人の目と目の高さが同じになったとき、再び目が合った。落ちていく女の、深く黒い瞳が、脩介の茶色がかった瞳をとらえる。脩介と女は、ガラス越しに見つめ合った。
 それは永遠とも思える一瞬だった。やがて女の瞳は脩介から逸れ、再び下へと落ちていく。続いて白いワンピースと、その中から伸びる細い青い足も。
 そのうちゆっくりと、まずテレビの音が戻ってきた。小さな卓が、布団が、視界に現れ、世界が色を取り戻していく。
ようやく動けるようになり、ガラスから手を離し、窓を開けてベランダに出た。びゅうっと冷たい風が吹きつけてくる。手すりから身を乗り出し、下を覗きこむ。暗くてよく見えない。それもきのうと同じだった。
部屋に戻り、布団にどさりと身体を投げ出した。
 見間違いじゃない。脩介は、震える記憶を励まして、女の端々まで思い出してみた。女はきのうと同じ顔で、同じ服を着ていた。白いフレアーワンピースの、ふわりとした広がりようまで。
 きのうと同じ女だ。間違いなく。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み