第6話
文字数 818文字
脩介は動けなかった。確信した。あの女は現実じゃない。
「幽霊……」
声に出してそう言ったとき、誰かが耳元で囁いたような気がした。脩介はびくりと体を震わせ、後ろを振り向いた。誰もいない。
「嘘だろ……なんで、俺」
足もとから立ち昇ってくる震えを、抑えることができない、と同時に、脩介は何か、妙な気持ちになった。
翌日は、わざと外で時間を潰して、例の時間を過ぎた後に帰った。部屋に入ると、ちょうど夜中の一時。脩介は、そのまま部屋の明かりをつけずに、窓の前に佇んだ。
窓の外は、わずかな星と街灯の光で、ぼんやり明るい。こうしてみると、別世界みたいだ。その中に、また女が落ちてくるんじゃないかと思った。脩介の帰りを、待っていたかのように。
けれど女は現れなかった。明かりのスイッチを入れた。たちまち部屋は、明るい日常へと戻る。
脩介は息を吐いた。〇時二十三分を過ぎると、落ちる女は現れないらしい。
幽霊が出るとわかっていても、家に帰らないわけにはいかない。その時間がくると、何かを感じる。窓の外に目を向けると、闇の中、青白い二本の腕が現れる。すでに瞼に焼きついてしまったその姿を、脩介は、遠くから見守るような、どこか不思議な気持ちで眺めた。
もちろん怖い。自分のどこかが、冷たい手で撫でられる感覚。だけどそれだけじゃない、何か不思議な感じがあった。
女がゆっくりと姿を現す。長い髪と白いフレアーが、夜の海に広がる。そうして脩介と女の瞳の高さが同じになったとき、反対の二人の目が合う。本当なら一瞬のはずなのに、じれったいような長い時間。
それから女はゆっくりと、下に落ちていく。後には、静寂と夜と自分だけ。
それにしても、なぜ突然、こんなことになったのだろう。入学のときにこのマンションに入ってから、一年半になるが、こんなことは一度もなかった。それが突然、なぜ今。
それにもう一つ疑問があった。あの落ちる女を、他に見ている人はいないのだろうか。
「幽霊……」
声に出してそう言ったとき、誰かが耳元で囁いたような気がした。脩介はびくりと体を震わせ、後ろを振り向いた。誰もいない。
「嘘だろ……なんで、俺」
足もとから立ち昇ってくる震えを、抑えることができない、と同時に、脩介は何か、妙な気持ちになった。
翌日は、わざと外で時間を潰して、例の時間を過ぎた後に帰った。部屋に入ると、ちょうど夜中の一時。脩介は、そのまま部屋の明かりをつけずに、窓の前に佇んだ。
窓の外は、わずかな星と街灯の光で、ぼんやり明るい。こうしてみると、別世界みたいだ。その中に、また女が落ちてくるんじゃないかと思った。脩介の帰りを、待っていたかのように。
けれど女は現れなかった。明かりのスイッチを入れた。たちまち部屋は、明るい日常へと戻る。
脩介は息を吐いた。〇時二十三分を過ぎると、落ちる女は現れないらしい。
幽霊が出るとわかっていても、家に帰らないわけにはいかない。その時間がくると、何かを感じる。窓の外に目を向けると、闇の中、青白い二本の腕が現れる。すでに瞼に焼きついてしまったその姿を、脩介は、遠くから見守るような、どこか不思議な気持ちで眺めた。
もちろん怖い。自分のどこかが、冷たい手で撫でられる感覚。だけどそれだけじゃない、何か不思議な感じがあった。
女がゆっくりと姿を現す。長い髪と白いフレアーが、夜の海に広がる。そうして脩介と女の瞳の高さが同じになったとき、反対の二人の目が合う。本当なら一瞬のはずなのに、じれったいような長い時間。
それから女はゆっくりと、下に落ちていく。後には、静寂と夜と自分だけ。
それにしても、なぜ突然、こんなことになったのだろう。入学のときにこのマンションに入ってから、一年半になるが、こんなことは一度もなかった。それが突然、なぜ今。
それにもう一つ疑問があった。あの落ちる女を、他に見ている人はいないのだろうか。