十四
文字数 902文字
師走に入り、街の飾りが急に華やかになった。人なんて現金なものだなと思う。通りを歩けばクリスマスソングが流れ、赤と白の色彩がやたら目に付く。東京の冬に雪は無い。これが見慣れた光景ではあるが、ヒロユキの中で冬は雪の積もった真っ白な世界であった。ふと故郷を思う時、そこには必ず雪景色があった。だから、ヒロユキにとって郷愁とは雪景色そのものである。恐らくリュウイチも、この東京のどこかで曇天を眺めながら雪が降るのを待っている。あれから携帯電話に着信は残してはいるものの、一度も連絡が取れずにいた。やはり、あの日の夜の別れが悔やまれた。そんなある日、またあの刑事が訪ねてきた。今度はアズマという老刑事一人だった。
「その後、サカキから何か連絡はありませんか?」
「無いよ」
「そうですか、新宿のジムにも現れませんか」
心の中で、「見られていた」と思った。こいつらは、自分の生活をどこからともなく見ている。そして疑っている。
「私らがあの男を調べて行くと、本当に不思議なほど誰とも繋がってないんですわ。珍しい男です。まだ高校生の時に両親が自殺して、それからずっと新宿界隈を根城にしていたようなんですがね、幼少の頃に青森に住んでいたこと以外、何も出て来ないんです。サカキの立ち寄りそうな場所、あなたどこか知りませんか?」
「刑事さんは、彼がオレオレ詐欺に関わっていると思っているんですか?」
アズマは一瞬真顔になり、それから頬を緩めた。
「正直、これだけ何もでないと、我々がガセネタを掴まされたのかもしれません。ですが、サカキと言う男は、私の勘では何かに関わっている、そう踏んでいます」
「不思議ですね、何も出て来ない人間を疑い続けるなんて」
「何も出て来ないのがね、逆にね。歌舞伎町で長年生き延びてきたような男から何も出て来ないというのがね……」
「それって、裏社会の人間に対する偏見ですよね?」
「そういうことになりますかね。我々刑事の性なのかもしれません。ですが、九割がた、この勘は当たります。サカキがそうじゃないことを願います。また来ます。サカキから連絡があったら知らせてください。では」
立ち去った。アズマは振り向かなかった。
「その後、サカキから何か連絡はありませんか?」
「無いよ」
「そうですか、新宿のジムにも現れませんか」
心の中で、「見られていた」と思った。こいつらは、自分の生活をどこからともなく見ている。そして疑っている。
「私らがあの男を調べて行くと、本当に不思議なほど誰とも繋がってないんですわ。珍しい男です。まだ高校生の時に両親が自殺して、それからずっと新宿界隈を根城にしていたようなんですがね、幼少の頃に青森に住んでいたこと以外、何も出て来ないんです。サカキの立ち寄りそうな場所、あなたどこか知りませんか?」
「刑事さんは、彼がオレオレ詐欺に関わっていると思っているんですか?」
アズマは一瞬真顔になり、それから頬を緩めた。
「正直、これだけ何もでないと、我々がガセネタを掴まされたのかもしれません。ですが、サカキと言う男は、私の勘では何かに関わっている、そう踏んでいます」
「不思議ですね、何も出て来ない人間を疑い続けるなんて」
「何も出て来ないのがね、逆にね。歌舞伎町で長年生き延びてきたような男から何も出て来ないというのがね……」
「それって、裏社会の人間に対する偏見ですよね?」
「そういうことになりますかね。我々刑事の性なのかもしれません。ですが、九割がた、この勘は当たります。サカキがそうじゃないことを願います。また来ます。サカキから連絡があったら知らせてください。では」
立ち去った。アズマは振り向かなかった。