第43話 光

文字数 577文字

 アルラゴルは、剣を振る。
 持ち慣れた剣なのに、初めて剣を持った感じがした。
 白浜で、ずっとアルラゴルは剣の練習をした。
「自分のために剣を振るうのは、人食い悪鬼も同じ」
 老師に言われた訓示だ。
「ただやみくもに剣を振り回し、人を切るのが剣ではない。天地の恩寵を感じ、自分が守るべき人々に感謝して振るうのが剣なのだ」
 分身の剣は、白刃のきらめきを白浜に放った。
「剣を振るう者は、己のためでなく、人の愛を守るために振るわねばならん」
 師匠に教えられた基本の打ち込みを、上から下へ。
 横から斜めへ。
 下から上へ。
 剣を打ち込む。
「欲望や執着を捨て、人の命を大事にするのだ」
 剣は人の命を守るもの。
 剣士の心得が天地万物から始まる。
 それは剣士が人であり、人は天地の恵みに生かされて生きているからである。
 剣士は愛を持って剣を振るわねばならない。
 それは剣が人の命を守る武器であるからである。
 「前を向け、アルラゴル」
 広い海に、太陽が沈みつつある。
「前を向くのだ」
 陰が背後に伸び、空の彼方から夜闇が迫りつつある。
 背を向けたアルラゴルの目には、闇は映らない。
 アルラゴルの剣が海に向かって止まる。
 皇太子ザルハの誰かの面影が浮かび上がり、海の中に消えていった。
 次にアルラゴルが見た姿は、シャルエスの顔だった。
 剣の先には、沈み行く太陽の眩い光。
 光しかない。
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