第44話 ハワ
文字数 2,066文字
帰り道で、きいきいと声がして、ハワが騒々ぎたてるのを、腹が据わったアルラゴルは平然と聞き流した。
アルラゴルの早い足に短い足ではついていけず、駆け足になりながら、必死で食らい付いてくる。
ボサボサの黒髪、麻の短い衣服を着て、素足を惜しみなく出している少女ハワだ。
「あんた、シャルエス、どこへ連れていく気だった?」
少女は現れた勢いと同じく、怒りが頂点の剣幕で、アルラゴルに怒鳴りだした。
「村長、怒ってる。とても」
「どうする?シャルエス殿を束縛でもするつもりか?」
「ううん、戻ってきて、食事世話しろと言ってた。だから、シャルエス、家に戻る。あんたも」
アルラゴルとシャルエスは顔を見合わせた。
なんとなく壁を感じて、気に入らないハワは、きっとアルラゴルを見た。
「ちょっと、あんた。あんた、シャルエスの家に出入りして、何者なの?」
「私はシャルエスの知り合いだ、あなたこそどういった関係だ」
今から大事な戦いがあるのに、こんなところでこの少女に構っている暇はない。
アルラゴルは珍しく冷たく答えた。
「シャルエスの知り合いだったら、私に挨拶しなさい。私はシャルエスの嫁」
「嫁とは聞いていないな。ただの世話係だと言っていたよ、シャルエス様は」
ハワは絶句する。
その様子を後ろを歩いていたシャルエスは気の毒そうに見たが、とくに同情した様子もないアルラゴルはつっけんどんに言った。
「何か用か?用がないなら、帰ってくれ。私たちは行くところがある」
「待ちなさいよ。シャルエスの知り合いか何か知らないけど、突然来て、シャルエスと親しくして、私が嫁でないって言って、どういうことよ?あんた、シャルエスの何なのよ」
「知り合いだと言っただろう」
「嘘よ。知り合いなら、嫁の私を追い出したりできるものですか。あんたは・・・」
と、アルラゴルの隠した顔に気づいて、少女らしく恐怖で顔を歪めた。
しばらくシャルエスに避けられていたから、遠巻きに見ていただけで、アルラゴルがどんな人物なのか見てなかったのだ。
「もういいか、私は行くぞ」
「待ちなさいよ」
黒衣を引っ張られて、アルラゴルはやむなく足を止めた。
「あんた、あんたら、この島から脱出する方法考えてるんでしょ?」
「しっ」
アルラゴルは仕方なく、ハワの口元を手で塞いだ。
その手を見て、ハワは実際に叫び声を上げそうになった。
しかし、外国のことが分からないハワは、手を離すと、アルラゴルのことをすんなりと受け入れた。案外、よその国の人間だと思えば、おかしく思わないものなのだ。
村人らしい純粋さを感じて、アルラゴルは内心笑みが漏れた。
「あんた、あんたら、何も知らないから、教えておいて上げる。首長はこの島からシャルエスを出さないわ。何があっても」
ハワが勢いこんでい言うことに、常ならぬ響きを感じて、アルラゴルはハワに目を留めた。
「何でも絶対はないと思うがな」
「首長たちは、聖なる石を大事にしている。聖石は、この世で神が残した玉石。首長たちは、石のためならどんなことでもする」
「あの、太陽の塔に置いてある光る石か?」
「そう、儀式の時にいつも持っている、手持ちの籠に入った光る石」
ハワは言いかけて、背を向けた。
「あの石が何か?」
「石は特別だけど、この村では呪術で使うものを決まっている。昔は遠くから来たと言っている。首長や長老たち、その石のため、血の生命水を与える。首長たちには、とても旨いもの。島で最も美食とされている。首長たち、石に捧げる。美食の旨い、血の生命水」
「いつもやるのか?」
「分からない。首長がすると決めたとき。血の生命水を取れる生贄が手に入ったとき」
ハワは言いかけて、顔をしかめた。しゃべったらいけない村の秘密に尻ごみしたようだ。
「血の生命水の儀式は、この村でも最も大事な儀式の一つ。シャルエスは国王様。だから、避けては通れない道、けれど、シャルエスも危険」
「シャルエス様も?」
「分からない。でも、首長は外部の人間を使う。シャルエスだから、シャルエスでやりたいことは確か」
アルラゴルは自分が感じた嫌な感じが、当たっていたことを知った。
こんな島で、シャルエスが理解され、温かく見守られて、生涯生きるなど、嘘なのだ。
アルラゴルは首長ブドゥルの顔を思い出した。
たしかに、あいつは、血を欲しがっている顔をしている。
「分かった、ハワ。私が気をつけてシャルエス様を見守っているから、心配するな」
「え・・・?」
「シャルエス様に危害を加えるやつは私が阻止する。安心しろ」
殺伐とした言い方だったが、シャルエスを守りたいと思う気持ちは、同じ気持ちを持つ者には伝わるものらしい。
ちょっと見直したように、ハワはアルラゴルを見た。
「脱出するとき、私も連れて行け」
と、そう言ったのには、アルラゴルは参った。
「お前はこの島の住民だろう?外へ出てもいいのか?」
「シャルエスの行くところ、私はどこへでも、行く」
ハワの怒りのある怖い顔を見て、アルラゴルもそれだけ本気なら言うことも聞くまいと、放っておくことにした。
アルラゴルの早い足に短い足ではついていけず、駆け足になりながら、必死で食らい付いてくる。
ボサボサの黒髪、麻の短い衣服を着て、素足を惜しみなく出している少女ハワだ。
「あんた、シャルエス、どこへ連れていく気だった?」
少女は現れた勢いと同じく、怒りが頂点の剣幕で、アルラゴルに怒鳴りだした。
「村長、怒ってる。とても」
「どうする?シャルエス殿を束縛でもするつもりか?」
「ううん、戻ってきて、食事世話しろと言ってた。だから、シャルエス、家に戻る。あんたも」
アルラゴルとシャルエスは顔を見合わせた。
なんとなく壁を感じて、気に入らないハワは、きっとアルラゴルを見た。
「ちょっと、あんた。あんた、シャルエスの家に出入りして、何者なの?」
「私はシャルエスの知り合いだ、あなたこそどういった関係だ」
今から大事な戦いがあるのに、こんなところでこの少女に構っている暇はない。
アルラゴルは珍しく冷たく答えた。
「シャルエスの知り合いだったら、私に挨拶しなさい。私はシャルエスの嫁」
「嫁とは聞いていないな。ただの世話係だと言っていたよ、シャルエス様は」
ハワは絶句する。
その様子を後ろを歩いていたシャルエスは気の毒そうに見たが、とくに同情した様子もないアルラゴルはつっけんどんに言った。
「何か用か?用がないなら、帰ってくれ。私たちは行くところがある」
「待ちなさいよ。シャルエスの知り合いか何か知らないけど、突然来て、シャルエスと親しくして、私が嫁でないって言って、どういうことよ?あんた、シャルエスの何なのよ」
「知り合いだと言っただろう」
「嘘よ。知り合いなら、嫁の私を追い出したりできるものですか。あんたは・・・」
と、アルラゴルの隠した顔に気づいて、少女らしく恐怖で顔を歪めた。
しばらくシャルエスに避けられていたから、遠巻きに見ていただけで、アルラゴルがどんな人物なのか見てなかったのだ。
「もういいか、私は行くぞ」
「待ちなさいよ」
黒衣を引っ張られて、アルラゴルはやむなく足を止めた。
「あんた、あんたら、この島から脱出する方法考えてるんでしょ?」
「しっ」
アルラゴルは仕方なく、ハワの口元を手で塞いだ。
その手を見て、ハワは実際に叫び声を上げそうになった。
しかし、外国のことが分からないハワは、手を離すと、アルラゴルのことをすんなりと受け入れた。案外、よその国の人間だと思えば、おかしく思わないものなのだ。
村人らしい純粋さを感じて、アルラゴルは内心笑みが漏れた。
「あんた、あんたら、何も知らないから、教えておいて上げる。首長はこの島からシャルエスを出さないわ。何があっても」
ハワが勢いこんでい言うことに、常ならぬ響きを感じて、アルラゴルはハワに目を留めた。
「何でも絶対はないと思うがな」
「首長たちは、聖なる石を大事にしている。聖石は、この世で神が残した玉石。首長たちは、石のためならどんなことでもする」
「あの、太陽の塔に置いてある光る石か?」
「そう、儀式の時にいつも持っている、手持ちの籠に入った光る石」
ハワは言いかけて、背を向けた。
「あの石が何か?」
「石は特別だけど、この村では呪術で使うものを決まっている。昔は遠くから来たと言っている。首長や長老たち、その石のため、血の生命水を与える。首長たちには、とても旨いもの。島で最も美食とされている。首長たち、石に捧げる。美食の旨い、血の生命水」
「いつもやるのか?」
「分からない。首長がすると決めたとき。血の生命水を取れる生贄が手に入ったとき」
ハワは言いかけて、顔をしかめた。しゃべったらいけない村の秘密に尻ごみしたようだ。
「血の生命水の儀式は、この村でも最も大事な儀式の一つ。シャルエスは国王様。だから、避けては通れない道、けれど、シャルエスも危険」
「シャルエス様も?」
「分からない。でも、首長は外部の人間を使う。シャルエスだから、シャルエスでやりたいことは確か」
アルラゴルは自分が感じた嫌な感じが、当たっていたことを知った。
こんな島で、シャルエスが理解され、温かく見守られて、生涯生きるなど、嘘なのだ。
アルラゴルは首長ブドゥルの顔を思い出した。
たしかに、あいつは、血を欲しがっている顔をしている。
「分かった、ハワ。私が気をつけてシャルエス様を見守っているから、心配するな」
「え・・・?」
「シャルエス様に危害を加えるやつは私が阻止する。安心しろ」
殺伐とした言い方だったが、シャルエスを守りたいと思う気持ちは、同じ気持ちを持つ者には伝わるものらしい。
ちょっと見直したように、ハワはアルラゴルを見た。
「脱出するとき、私も連れて行け」
と、そう言ったのには、アルラゴルは参った。
「お前はこの島の住民だろう?外へ出てもいいのか?」
「シャルエスの行くところ、私はどこへでも、行く」
ハワの怒りのある怖い顔を見て、アルラゴルもそれだけ本気なら言うことも聞くまいと、放っておくことにした。