2 瞳

文字数 410文字

「命の恩人に対して相当な物言いじゃないかしら」

彼女がまた私の横を通り過ぎ

川の上流へと引き返して行く

「いや、すまない。この熊はどうするんです?」

彼女の背中に話しかけるが

立ち止まる様子はない

「じきに野犬やカラスが集まって綺麗にかたずけてくれるわ」

「この辺りに食事できる店ありますか、あと、泊まれる旅館も」

川のせせらぎだけが

いつまでも耳に届く



やがて彼女は森へと入っていった

私は熊に向き直った

「じきに野犬が集まるか……」



ジープに戻り

エンジンを回そうとするが

直前で手を止める

「さっきの人に帰り道聞けばよかったな」

残りのガソリンでスタンドまで

たどり着ける可能性は少ない

むやみに走り回れば

今度こそ遭難は間違いないだろう



しばらく考え込んだ後

彼女にガソリンを売って貰おうと結論が出た

スタンドから離れた地域だ

彼女でなくても

周りの誰かが所持してるはず



私は彼女の後を追って走り出した



頭の中ではなぜか

彼女の妖しげな瞳が

いつまでも焼きついていた 
 

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