2 瞳

文字数 464文字

「お嬢さんがそれで?」

見ればわかるが

何か話さないと思い私は慌てていた

「二回とも、額を命中するとは、見事な腕前」

銃口で熊の頭を強く小突き生死を確かめていた彼女が振り返る

「貴方が胃袋に入った後だったら、ホテルまで運ぶのに苦労させられるところだったわ」

「お互い、運が良かった訳だ」

「そうでもなくてよ……」

彼女がライフルを意味ありげに見つめながら

被筒を愛しげに擦り始める

「また、人間を食べるチャンスを逃したから」

彼女の低く落ち着いた声に

重々しさが加わった

私は反射的に後退り

ライフルと彼女に警戒の目を向けた



「冗談よ」

彼女は被筒を妖しげに見下ろしながら素っ気なく声を漏らした



「熊肉なんて味が濃過ぎて、今時、またぎでも食べないわ」

「なら、人を食べるというのも?」

「本気で信じてたの。私が獰猛な肉食獣に見えて?」

「その銃の腕前なら、じゅうぶん見えなくもない」

彼女は短く笑いため息で答えた

「銃は小さい頃から、父に習っていて射撃は得意なの」

「自分の食に繋げるならまだしも、良い趣味とはいえないな」

私は熊に同情しながらも決して近付こうとはしなかった 

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