第33話 げんさん危機一髪!
文字数 1,724文字
「ううーん、よく寝た。今日もよくこすったなぁ」
げんさんは目をシパシパさせて大きく1センチくらい伸びをした。
まさとくんが何度も何度も書き直しをした漢字のテストで少しへこんだ汚れた頭をスベスベとなでた。
「今日もとなりからあまーいいいにおいがしてたな。消しゴムのもなみちゃんは探検の夜からなんだかずっとこっちを見てる気がするし、オレが頭にケシカスつけてたのを笑われちまったぜ」
頬っぺたを赤くしたまま思い出し笑いになって、あわててまわりを見た。するといつもと様子が違って文房具たちがいないことに気づいた。
”ここは筆箱の中じゃない!?”
「もしかして、まさとのズボンのポケットじゃねえか」
そうわかったとたん。ザッバーン。
「ゴボッ、ガハッ、ボボボっっっ」
はげしい水流がスボンのポケットの中まであっという間に入り込み、機械の音がけたたましく響いた。
グオーン、グオーン。
「こりゃ、洗濯機だ !」
げんさんはいとも簡単にポケットから放り出され、泡だらけで駆け巡る水の流れにグルグルと回転した。
「ああ、右、左・・今度は右か。あっイテッ、この洗濯槽ヤロー」
げんさんは、ケガならしょっちゅうの消しゴムだけにこれで汚れが落ちるならと半ばあきらめかけていた。しかし、包み紙がだんだん緩くなっていく。
「ああ、剥がれる。これだけはダメだ」
げんさんは知っていた。包み紙がない消しゴムは頭もお尻もない。ただただ、消すたびに丸くなっていく。そして転がったら最後。どこに行ったか分からず、持ち主でない人からゴミとして捨てられてしまうことを。
水流はどんどん激しくなった。お腹をぷっくりふくらませて、包み紙がとれないように、とれないようにと、ずり上げる。包み紙も自分自身。げんさんに向かって言った。
「紙のオレはもうだめだ。今までありがとうな」
「あ、あーーーーっ」
そのお腹をすり抜けた。
すると、ワイシャツがガバっと包み紙をつかんだ。
「ナニナニ!?」
つかんだのは、踊るワイシャツのポケットに刺さっていたボールペン。クリップのすきまにうまい具合に包み紙をはさんでいる。
「助かったぜ」
「大丈夫かい?」
ボールペンはパパさんがめずらしく佐賀のロフトで買ったもの。まだ3日しかたっていない。
洗いからすずきに変わった。水が足されるあいだに消しゴムのげんさんが近づいた。
「どうもありがとう。包み紙がなくちゃオレがオレじゃなくなる」
ボールペンはうなずいてお礼なんていいよと言った。
「まだ、このうちに来て短いけど、文房具のみんなは自分を大切にしてるよね。使ってくれる人が優しいからだろうな。僕なんか店先で試し書きばかりされてたんだ。けれど、パパさんは『花丸』の絵をふたつほどを描いたら『これいいね』って言って買ってくれた。うれしかったなぁ」
「そうか。でも今日はお互いに洗濯ものと一緒にされちゃって、親子でうっかりだな」
「そうだね」
アハハ・・・
笑いあって上を見上げたら、また、水が勢いよく降りかかってきた。
「じゃ、またあとで。包み紙は僕がしっかりクリップでつかんでおくよ」
「ああ、頼んだぜ」
げんさんが水に身を任せようとワイシャツのポケットに視線を移すと、赤い血が。
「オイ、オイ。ケガしてんじゃねえか。大丈夫か」
「大丈夫。大丈夫」
「ほんとに大丈夫か?」
「ダイジヨウ・・・」
そのままふたりとも水流に飲み込まれて、とうとう洗濯が終わるまでお互いを見ることはなかった。
*
「なんね!これ。洗濯槽に消しゴムが落ちてるし、ワイシャツにボーペンが刺さったままよ」
ママさんはいつになくご機嫌斜めだ。
なんだ、なんだとパパさんとまさとくんがやってきた。
「あっ、消しゴム。ゴメンなさい」
まさとくんはすかさずあやまった。その横でパパさんは青ざめた。
「ぼっ僕のワイシャツがぁ・・・」
ボールペンから染み出した赤いインクでワイシャツのポケットが染まっている。
「あーあ」ぼーっとなるパパさん。
「あーあ」あきれたママさん。
「アッハハハハ」
笑うまさとくんは消しゴムの包み紙がボールペンに挟まっているのを発見。無事にげんさんに装着された。
「ラッキー♡」
* *
数日後。
パパさんは新しいワイシャツとボールペンの替え芯を買った。
「今月の小遣いピンチ。トホホ」
げんさんは目をシパシパさせて大きく1センチくらい伸びをした。
まさとくんが何度も何度も書き直しをした漢字のテストで少しへこんだ汚れた頭をスベスベとなでた。
「今日もとなりからあまーいいいにおいがしてたな。消しゴムのもなみちゃんは探検の夜からなんだかずっとこっちを見てる気がするし、オレが頭にケシカスつけてたのを笑われちまったぜ」
頬っぺたを赤くしたまま思い出し笑いになって、あわててまわりを見た。するといつもと様子が違って文房具たちがいないことに気づいた。
”ここは筆箱の中じゃない!?”
「もしかして、まさとのズボンのポケットじゃねえか」
そうわかったとたん。ザッバーン。
「ゴボッ、ガハッ、ボボボっっっ」
はげしい水流がスボンのポケットの中まであっという間に入り込み、機械の音がけたたましく響いた。
グオーン、グオーン。
「こりゃ、洗濯機だ !」
げんさんはいとも簡単にポケットから放り出され、泡だらけで駆け巡る水の流れにグルグルと回転した。
「ああ、右、左・・今度は右か。あっイテッ、この洗濯槽ヤロー」
げんさんは、ケガならしょっちゅうの消しゴムだけにこれで汚れが落ちるならと半ばあきらめかけていた。しかし、包み紙がだんだん緩くなっていく。
「ああ、剥がれる。これだけはダメだ」
げんさんは知っていた。包み紙がない消しゴムは頭もお尻もない。ただただ、消すたびに丸くなっていく。そして転がったら最後。どこに行ったか分からず、持ち主でない人からゴミとして捨てられてしまうことを。
水流はどんどん激しくなった。お腹をぷっくりふくらませて、包み紙がとれないように、とれないようにと、ずり上げる。包み紙も自分自身。げんさんに向かって言った。
「紙のオレはもうだめだ。今までありがとうな」
「あ、あーーーーっ」
そのお腹をすり抜けた。
すると、ワイシャツがガバっと包み紙をつかんだ。
「ナニナニ!?」
つかんだのは、踊るワイシャツのポケットに刺さっていたボールペン。クリップのすきまにうまい具合に包み紙をはさんでいる。
「助かったぜ」
「大丈夫かい?」
ボールペンはパパさんがめずらしく佐賀のロフトで買ったもの。まだ3日しかたっていない。
洗いからすずきに変わった。水が足されるあいだに消しゴムのげんさんが近づいた。
「どうもありがとう。包み紙がなくちゃオレがオレじゃなくなる」
ボールペンはうなずいてお礼なんていいよと言った。
「まだ、このうちに来て短いけど、文房具のみんなは自分を大切にしてるよね。使ってくれる人が優しいからだろうな。僕なんか店先で試し書きばかりされてたんだ。けれど、パパさんは『花丸』の絵をふたつほどを描いたら『これいいね』って言って買ってくれた。うれしかったなぁ」
「そうか。でも今日はお互いに洗濯ものと一緒にされちゃって、親子でうっかりだな」
「そうだね」
アハハ・・・
笑いあって上を見上げたら、また、水が勢いよく降りかかってきた。
「じゃ、またあとで。包み紙は僕がしっかりクリップでつかんでおくよ」
「ああ、頼んだぜ」
げんさんが水に身を任せようとワイシャツのポケットに視線を移すと、赤い血が。
「オイ、オイ。ケガしてんじゃねえか。大丈夫か」
「大丈夫。大丈夫」
「ほんとに大丈夫か?」
「ダイジヨウ・・・」
そのままふたりとも水流に飲み込まれて、とうとう洗濯が終わるまでお互いを見ることはなかった。
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「なんね!これ。洗濯槽に消しゴムが落ちてるし、ワイシャツにボーペンが刺さったままよ」
ママさんはいつになくご機嫌斜めだ。
なんだ、なんだとパパさんとまさとくんがやってきた。
「あっ、消しゴム。ゴメンなさい」
まさとくんはすかさずあやまった。その横でパパさんは青ざめた。
「ぼっ僕のワイシャツがぁ・・・」
ボールペンから染み出した赤いインクでワイシャツのポケットが染まっている。
「あーあ」ぼーっとなるパパさん。
「あーあ」あきれたママさん。
「アッハハハハ」
笑うまさとくんは消しゴムの包み紙がボールペンに挟まっているのを発見。無事にげんさんに装着された。
「ラッキー♡」
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数日後。
パパさんは新しいワイシャツとボールペンの替え芯を買った。
「今月の小遣いピンチ。トホホ」