第5話 ノートさんの内緒のお話
文字数 2,766文字
「さあ、いくよお。新入り」
「ハイ、コロロ先輩」
いつの間にか部活動のノリみたいな関係になった二人。
「わたしのことはみんなの前ではコロロちゃんね」
「わかりました。コロロ先…じゃなかった。コロロちゃん」
今日は新しい赤えんぴつちゃんをみんなに紹介しようとおでかけすることになった。
ちなみにBえんぴつくんとは空き缶の中であいさつをすませている。新しい赤えんぴつちゃんにカクカクしてますねと言われて、しばらく落ち込んでいたらしい。
二人は空き缶をとびだしてコロコロ、コロロ。
「太郎くん」
「やっほい、コロロちゃん」
「紹介するね。新入り、じゃなかった新しい赤えんぴつちゃんよ」
「初めまして。コロロ先輩、じゃなかったコロロちゃんからお話しはうかがっています。
太郎くん、やさしく削ってね♡」
ズキューン!
太郎はハートをうち抜かれ、ブンブンと腕を回した。
「も、も、もちろんだよ。いきおいつけすぎて削って折れないようにするよ」
(やるねこの子)
コロロちゃんは横目でみながらうなづいた。
そして二人は筆箱の近くまでコロコロ、コロロ。
「げんさん、こんにちは」
「おうコロロちゃん、元気そうだな。この間まで使ってもらえなくて落ち込んでたのによ」
アハ
「まさとくん、わたしのこと嫌いになったのかなぁとか言って。まあなんだ。空き缶の中にずっと閉じこもってると、ろくなこと考えねえからな。オレが言ってたろ」
(う、ヤバ。へんな話で長くなりそう)
「げ、げんさんそんなことはいいから。こっちは新しい赤えんぴつちゃん。よろしくね。じゃ」
二人はちょこんとおじぎをして次へコロコロ、コロロ。
やがて机の上に大きく広げられたノートのそばまでやって来た。
「ねえねえ、コロロ先輩。あの足が長くてすてきなダンスを踊るお方は?」
「ああ、あれコンパスのコンパよ」
「コンパは女の子文具とコンパばっかりしてるらしいから気をつけて」
コロロちゃんはいつになく少し意地悪なことを言ってしまった。
踊っていたコンパが二人に気づいて近寄ってきた。
「やあ。コロロちゃんと新しい赤えんぴつちゃんだね。ごきげんよう」
新しい赤えんぴつちゃんが笑顔の上に笑顔をつくった。
「は、初めまして。わたしここにきてまだ日が浅くって。コンパさんですよね。すてきなダンスで描く円が、とてもきれいで感激です」
(いやだ。この子目がハートになってる)
「いやあ。たいしたことないよ。でも日頃の練習が大切かな。ぼくのポリシーは人具一体さ」
二人は聞いたこともない4文字熟語をスルーした。
「そういえば、新しい赤えんぴつちゃんのことは何て呼んだらいいのかな」
「ええ、そういえば名前はまだないんです。よければつけてください」
コンパは腕組みをしてひらめいた。
「そうだな。赤いスイートピーのように可憐だから、カレンちゃんはどう?」
「わあ、すてきありがとう。やったぁ。コロロちゃんも呼んで」
・・・・
「カレンちゃん」
(ますますやるねこの子)
コロロちゃんは横目でみながらコクコクとうなづいた。
*
コンパが専用のケースに戻ったあと、二人はお花畑のようになったノートの上を歩いた。
「きれいねぇ」
「そうねぇ」
気持ちよくなって背伸びしたそのとき、コロロちゃんは何かにつまづいた。
「痛っ」
「大丈夫?」
「痛たたた。何この穴?」
それはコンパが描いた円の中心にあけた穴だった。
「もう最悪。こんなとこに穴あけないでよ。だいたいコンパったら、キラキラして気取ってて。わたしたちのように身を削って人間の役に立ってる気持ちになりなさいよ」
「コロロ先輩...」
カレンちゃんは心配そうにコロロちゃんを見つめた。
「あらぁ。コロロちゃん大丈夫?」
足元のノートがページをあおいでいきなりしゃべりはじめた。
「あ、ノートさん。いえいえ大丈夫です」
(わたしったら、ついグチをこぼしちゃった)
「ここまで転がってきて疲れたでしょ。内緒のお話があるの。いらっしゃい」
ノートさんはページを大きくめくって二人を包み込んで閉じた。そこはまるでおかあさんのふとんの中にもぐりこんだみたいに、あったかくて甘いにおいがした。
* *
「コロロ先輩。なんだかウキウキしません?」
「なんかね。する」
ノートさんはゆっくりと話しはじめた。
「コンパくんの話ね。コンパくんがウチに来た時は、自分があぶない文房具だってわかっていなかったみたいなの。友達になってほしくて飛んだり跳ねたりしてたら、みんなこわがって逃げて行ってしまって。そんなとき、げんさんが『お前かっこいいよな。オレと遊ぶか』と言ってあげたの。そしたらコンパくん遊んでるときはりきりすぎて、いきおいでげんさんを串刺しにしてしまったの」
「え、えーっ串刺し?それで、それで」
「おろおろするコンパくんにげんさんは言ったわ『いつものことだ。ぜんぜん平気だよ。お前にはあぶない針がある。みんなにそれを教えながら仲良くするんだよ』って。そう言われて彼、変わっていったのよ」
「コンパって名前だけど女の子文具とコンパなんて誤解よ。みんなと仲良し。この穴だってあける前はいつも痛くしてごめんなさいってあやまってくるの。今は、体も、心も、キラキラになったと思うわ」
そこからは、コンパが練習の末にたどりついた極意、人と文房具がひとつになって息を合わせて描く「人具一体」のことや、Bえんぴつくんがはじめて芯が折れてびっくりして泣きながらウチに帰って、太郎くんに削ってもらったことなんかを、二人は目をキラキラさせて聞いた。
楽しい話で心がポカポカの二人に、ノートさんはいきなり!
コチョコチョコチョ!
アハアハ。アハハハハ。
「ノートさん、くすぐったい」
「コロロちゃんも、カレンちゃんも、コンパくんのことすきでしょ。素直に言いなさい。あなたたちの気持ちわかるのよ。」
コチョコチョコチョ!
笑いながら逃げられない二人は観念した。
「すきです」「すきです」
アハアハ。アハハハハハハハハ。
「よーし。素直が一番」
やっと手をとめたノートさんに、笑いすぎて息をきらしたカレンちゃんがたずねた。
「どうしてノートさんはみんなの気持ちがわかるんですか」
だって、文房具のみんなも、わたしを、使ってるでしょ
* * *
ノートが開いて起き上がった二人の前に、コンパが背伸びをしながらやってきた。
「やあ。ノートさんとのお話は済んだのかな」
二人は頬を赤くしてうなづいた。
「ちょうどよかった。これから赤い円を描こうと・・」
言い終わらないうちに、カレンちゃんがずずっとコンパにかけ寄った。
「コンパさん、わたしと踊っていただけますか」
・・・・・・・・
「ごめん。カレンちゃん。きみとは、踊れない」
「えっえーっ!?」
「ハイ、コロロ先輩」
いつの間にか部活動のノリみたいな関係になった二人。
「わたしのことはみんなの前ではコロロちゃんね」
「わかりました。コロロ先…じゃなかった。コロロちゃん」
今日は新しい赤えんぴつちゃんをみんなに紹介しようとおでかけすることになった。
ちなみにBえんぴつくんとは空き缶の中であいさつをすませている。新しい赤えんぴつちゃんにカクカクしてますねと言われて、しばらく落ち込んでいたらしい。
二人は空き缶をとびだしてコロコロ、コロロ。
「太郎くん」
「やっほい、コロロちゃん」
「紹介するね。新入り、じゃなかった新しい赤えんぴつちゃんよ」
「初めまして。コロロ先輩、じゃなかったコロロちゃんからお話しはうかがっています。
太郎くん、やさしく削ってね♡」
ズキューン!
太郎はハートをうち抜かれ、ブンブンと腕を回した。
「も、も、もちろんだよ。いきおいつけすぎて削って折れないようにするよ」
(やるねこの子)
コロロちゃんは横目でみながらうなづいた。
そして二人は筆箱の近くまでコロコロ、コロロ。
「げんさん、こんにちは」
「おうコロロちゃん、元気そうだな。この間まで使ってもらえなくて落ち込んでたのによ」
アハ
「まさとくん、わたしのこと嫌いになったのかなぁとか言って。まあなんだ。空き缶の中にずっと閉じこもってると、ろくなこと考えねえからな。オレが言ってたろ」
(う、ヤバ。へんな話で長くなりそう)
「げ、げんさんそんなことはいいから。こっちは新しい赤えんぴつちゃん。よろしくね。じゃ」
二人はちょこんとおじぎをして次へコロコロ、コロロ。
やがて机の上に大きく広げられたノートのそばまでやって来た。
「ねえねえ、コロロ先輩。あの足が長くてすてきなダンスを踊るお方は?」
「ああ、あれコンパスのコンパよ」
「コンパは女の子文具とコンパばっかりしてるらしいから気をつけて」
コロロちゃんはいつになく少し意地悪なことを言ってしまった。
踊っていたコンパが二人に気づいて近寄ってきた。
「やあ。コロロちゃんと新しい赤えんぴつちゃんだね。ごきげんよう」
新しい赤えんぴつちゃんが笑顔の上に笑顔をつくった。
「は、初めまして。わたしここにきてまだ日が浅くって。コンパさんですよね。すてきなダンスで描く円が、とてもきれいで感激です」
(いやだ。この子目がハートになってる)
「いやあ。たいしたことないよ。でも日頃の練習が大切かな。ぼくのポリシーは人具一体さ」
二人は聞いたこともない4文字熟語をスルーした。
「そういえば、新しい赤えんぴつちゃんのことは何て呼んだらいいのかな」
「ええ、そういえば名前はまだないんです。よければつけてください」
コンパは腕組みをしてひらめいた。
「そうだな。赤いスイートピーのように可憐だから、カレンちゃんはどう?」
「わあ、すてきありがとう。やったぁ。コロロちゃんも呼んで」
・・・・
「カレンちゃん」
(ますますやるねこの子)
コロロちゃんは横目でみながらコクコクとうなづいた。
*
コンパが専用のケースに戻ったあと、二人はお花畑のようになったノートの上を歩いた。
「きれいねぇ」
「そうねぇ」
気持ちよくなって背伸びしたそのとき、コロロちゃんは何かにつまづいた。
「痛っ」
「大丈夫?」
「痛たたた。何この穴?」
それはコンパが描いた円の中心にあけた穴だった。
「もう最悪。こんなとこに穴あけないでよ。だいたいコンパったら、キラキラして気取ってて。わたしたちのように身を削って人間の役に立ってる気持ちになりなさいよ」
「コロロ先輩...」
カレンちゃんは心配そうにコロロちゃんを見つめた。
「あらぁ。コロロちゃん大丈夫?」
足元のノートがページをあおいでいきなりしゃべりはじめた。
「あ、ノートさん。いえいえ大丈夫です」
(わたしったら、ついグチをこぼしちゃった)
「ここまで転がってきて疲れたでしょ。内緒のお話があるの。いらっしゃい」
ノートさんはページを大きくめくって二人を包み込んで閉じた。そこはまるでおかあさんのふとんの中にもぐりこんだみたいに、あったかくて甘いにおいがした。
* *
「コロロ先輩。なんだかウキウキしません?」
「なんかね。する」
ノートさんはゆっくりと話しはじめた。
「コンパくんの話ね。コンパくんがウチに来た時は、自分があぶない文房具だってわかっていなかったみたいなの。友達になってほしくて飛んだり跳ねたりしてたら、みんなこわがって逃げて行ってしまって。そんなとき、げんさんが『お前かっこいいよな。オレと遊ぶか』と言ってあげたの。そしたらコンパくん遊んでるときはりきりすぎて、いきおいでげんさんを串刺しにしてしまったの」
「え、えーっ串刺し?それで、それで」
「おろおろするコンパくんにげんさんは言ったわ『いつものことだ。ぜんぜん平気だよ。お前にはあぶない針がある。みんなにそれを教えながら仲良くするんだよ』って。そう言われて彼、変わっていったのよ」
「コンパって名前だけど女の子文具とコンパなんて誤解よ。みんなと仲良し。この穴だってあける前はいつも痛くしてごめんなさいってあやまってくるの。今は、体も、心も、キラキラになったと思うわ」
そこからは、コンパが練習の末にたどりついた極意、人と文房具がひとつになって息を合わせて描く「人具一体」のことや、Bえんぴつくんがはじめて芯が折れてびっくりして泣きながらウチに帰って、太郎くんに削ってもらったことなんかを、二人は目をキラキラさせて聞いた。
楽しい話で心がポカポカの二人に、ノートさんはいきなり!
コチョコチョコチョ!
アハアハ。アハハハハ。
「ノートさん、くすぐったい」
「コロロちゃんも、カレンちゃんも、コンパくんのことすきでしょ。素直に言いなさい。あなたたちの気持ちわかるのよ。」
コチョコチョコチョ!
笑いながら逃げられない二人は観念した。
「すきです」「すきです」
アハアハ。アハハハハハハハハ。
「よーし。素直が一番」
やっと手をとめたノートさんに、笑いすぎて息をきらしたカレンちゃんがたずねた。
「どうしてノートさんはみんなの気持ちがわかるんですか」
だって、文房具のみんなも、わたしを、使ってるでしょ
* * *
ノートが開いて起き上がった二人の前に、コンパが背伸びをしながらやってきた。
「やあ。ノートさんとのお話は済んだのかな」
二人は頬を赤くしてうなづいた。
「ちょうどよかった。これから赤い円を描こうと・・」
言い終わらないうちに、カレンちゃんがずずっとコンパにかけ寄った。
「コンパさん、わたしと踊っていただけますか」
・・・・・・・・
「ごめん。カレンちゃん。きみとは、踊れない」
「えっえーっ!?」