第8話 ものさしの孫兵衛さん はじめての謝罪2

文字数 1,018文字

「いったい、いつから記憶がないのよ」
 コロロちゃんはため息をついた。
「そっちはまことパパ。こっちは息子のまさとくん」
 孫兵衛さんはやっとわかったのか、ふとんによじのぼってパパさんの鼻先に顔をくっつけた。
「寝息までそっくりじゃ」

 すると突然、パパさんの寝言が聞こえてきた。
「ううん...おとうさん...庭でキャッチボールして...窓を割って....ごめんなさい」
 みんなは顔を見合わせた。
「うん。これは悪いわよね」
 眠たいコロロちゃんは容赦がなかった。
「...背広のうしろに....バカをくっつけて....ごめんなさい...」
「バカって?」
「植物のオナモミじゃ」

 それからえんえんと12個のいたずらや失敗をあやまっていたパパさん。
「やっぱりトラウマかのう」
 孫兵衛さんがそうささやくと、パパさんが大きく寝返りをうって、パチリと目をさました。
 やば!
 ぼくらはいそいで気配を消した。

「あれ、こんなところに文房具が。まさとここで勉強してたかな」
 ぼくらを見わたして、パパさんはなつかしそうに孫兵衛さんを手にとった。

「そうそう、このものさし思い出すな。子供のころともだちとものさしでチャンバラごっこして大きなキズをつくっちゃって。帰ったらおとうさんから『モノを大切にしろ』って怒れたよな。そして『ものさしの気持ちになれ』ってひざをたたかれた」
 パパさんは自分のひざをさすって、孫兵衛さんもさすった。

「それからかなぁ。文房具の気持ちをわかろうと思ったのは。あのとき、ものさしはどんな気持ちだったのかな。ゴメンね」

 うっうぅ・・・ワ、ワシのほうこそ。すまんかった。
 孫兵衛さんの涙は、決して小さくはないキズをつたって、パパさんの手に落ちた。
 
 そして、パパさんは孫兵衛さんをやさしくだきしめた。

        *

「おお、みんなありがとう」
 すっかりこころが晴れた孫兵衛さんは机の上でウキウキしている。
 あのあとパパさんが寝言で「1回きりだよ。トラウマじゃないよ」って言ってたのは不思議だっけど。
「明日は、はりきって学校にいこうかのう。半世紀ぶりじゃ」
みんな顔を見合わせた。
 (どんな時間軸してんのよ。このじじい)
 コロロちゃんはこころの中でつぶやいた・・つもりだった。

       * *
 次の日の学校
「うわー、まさとの定規かっけぇ」「竹でできてんじゃん」
 えへ。
 せっかくまわりの注目を集めていたのに孫兵衛さんは、あいかわらず寝ていた。
 ぐ、ふー
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登場人物紹介

やっほい太郎 青い手動のえんぴつ削り パパさんが子供の頃家にやってきた  これまで削ってきたえんぴつは本人曰く50万本


コロロちゃん 赤えんぴつの女の子文具、短くなって冒険大好き

Bえんぴつくん こころやさしい男の子文具

まさとくん 文房具が大好きな小学2年生

パパさん まさとくんのパパ、文房具の大切さを教えてくれる

消しゴムのげんさん おっさん文具 口は悪いが人情に熱い

コンパスのコンパ 紳士文具 華麗なダンスで奇麗な円を描く 人具一体がポリシー

ノートさん おかあさん文具 使う人も文房具も、みんなの気持がわかる

ものさしの孫兵衛さん おじいちゃん文具 ずっと前から家にいる 今は孫の手がわり

ハサミくん 怖がりの男の子文具 バッサバッサと取り切りきざむハサミ男の正体

のりちゃん  やさしくてりんとした天使の女の子文具 ハサミくんと一緒にがんばる

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