第10話 のりちゃんとハサミくん

文字数 1,051文字

 ハサミくんは大のこわがり
 「本当に切っていいの?大丈夫?切りすぎてない?」
 いつもそうさわいでは目をつぶってしまう。
 このあいだも新聞紙を切りきざんだとき一番ワーワーキャーキャー叫んでいた。

 今日は画用紙を使った工作の授業。
 バッサバッサと切り進んでしまうまさとくんに、ハサミくんは気が気じゃない。
 いきおいがつきすぎて振り返ると二度切りされた画用紙たちの声がした。
「たまんないなあ。きれいに切ってよ」
 それを聞いてもうしわけなさそうにハサミくんはたたずんだ。
 すると、まさとくんは筆箱に手を伸ばした。
「のりでくっつけちゃお」

 スティックからちょこっとだけ顔をのぞかせて、クルクルとまわって切れた紙と紙をもと通りにしていく。のりの動きがそう見えたハサミくんはおどろきとうれしさでいっぱいになった。
「のりちゃんありがとう」「のりちゃんすまないね」
 みんなをいたわるのりちゃんに画用紙たちもうれしそうにしている。

「のりちゃんは天使だ」
 ハサミくんはそう思って見つめているとのりちゃんと目があった。
 どきっ。
 そして筆箱ですれちがいざま声をかけられた。
「話があるの。今夜、空き缶のうらで待ってる」
 どきっ!、どきっ!!

          *

 空き缶のうらで待ち合わせた二人。
「話って何?」
 ハサミくんの問いかけに、のりちゃんはけげんそうに口をひらいた。
「ハサミくん。アナタ切るときおびえてるでしょ」
 え?
 言い当てられたハサミくんはドギマギとした。
「切るときは目をつぶったり、迷ったりしたらダメ。アナタの切った紙たちはとても痛そう」
 何も言えない。
「いい、ワタシがついてるから大丈夫。まさとくんが上手になるのはアナタにかかっているの」
「そうなの?」
「そうよ」

 ハサミくんは、のりちゃんのやさしくてりんとしたまなざしに「まさとくんのために自分がいるんだ」ということをあらためて気づかされた。
「わかった。ぼくもう迷わない。目もつぶらない」
 決心がついたハサミくんをうれしそうにのりちゃんは見つめる。

「のりちゃんもまさとくんのためにがんばろうね」
「そうね。ワタシはハサミくんの次に、かな」
 え?

 空き缶の中から聞き耳を立てている二人。
「いい感じですね。コロロ先輩」
「そうね。ここは自分からバッサバッサいってほしいわね。ハサミ男」
 そこへ、コンパも。
「彼も大切なのは『人具一体』さ」

        * *

 次の日、天使とハサミ男のがんばりでまさとくんの工作は先生にほめられた。
「よくできてるね。怪獣」
「ウサギです」
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登場人物紹介

やっほい太郎 青い手動のえんぴつ削り パパさんが子供の頃家にやってきた  これまで削ってきたえんぴつは本人曰く50万本


コロロちゃん 赤えんぴつの女の子文具、短くなって冒険大好き

Bえんぴつくん こころやさしい男の子文具

まさとくん 文房具が大好きな小学2年生

パパさん まさとくんのパパ、文房具の大切さを教えてくれる

消しゴムのげんさん おっさん文具 口は悪いが人情に熱い

コンパスのコンパ 紳士文具 華麗なダンスで奇麗な円を描く 人具一体がポリシー

ノートさん おかあさん文具 使う人も文房具も、みんなの気持がわかる

ものさしの孫兵衛さん おじいちゃん文具 ずっと前から家にいる 今は孫の手がわり

ハサミくん 怖がりの男の子文具 バッサバッサと取り切りきざむハサミ男の正体

のりちゃん  やさしくてりんとした天使の女の子文具 ハサミくんと一緒にがんばる

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