第6話 コンパのダンスは人具一体

文字数 1,203文字

 「えっえー!?」
 叫んだのはコロロちゃんだった。
 となりでカレンちゃんは手を頬にあてて涙ぐんでいる。

 「ちょっと、どういうことよ」
 赤い芯がますます赤くなって、コロロちゃんはコンパに詰め寄った。
「カレンちゃんの心をもて遊んだあげく、勇気を出して踊ってもらおうとしたのに、断わってしまうなんて、最低よ。さっきコンパがげんさんを串刺しにした失敗を知って、すごく身近に感じたのに。やっぱりわたしたちとは違うのよコンパは。この人でなし!じゃなかった、モノでなし!」

「うう・・グスン コロロ先輩」
「何?」
「それ内緒です」
 うぐっ

 コンパはやさしい笑みをうかべて言った。
「違うんだ。まだ長いえんぴつとは踊れないんだ」
 え?
「ぼくらは針を中心に遠心力を使って回転する。けれど、バランスをとる求心力も大切なんだ。長いえんぴつはバランスがとりにくい。そしてなにより、回りながらまさとくんの腕に当たってしまうよ」

「ハア...?#"$%&?」
 二人はむずかしい説明はチンプンカンプンだったが、最後のだけ納得した。
「だから、コロロちゃん。ぼくと、踊ってくれますか?」
 コンパは右手を差し出した。
「えっえー!?」

 コロロちゃんはコンパの右足のベルトをしっかりつけた。
「コロロ先輩。しっかり」
 カレンちゃんもすっかり応援している。

「針と芯は同じ長さになっているよね。ヨシ。回転する前はすこしだけ進行方向に体を傾けて。スタートとゴールが同じ位置にくれば成功。大丈夫ぼくを信じて」
「そして、息を吸って、回りはじめたら『くるーん、スー』」
「くるーん、スー?」
「そう、これを一緒に言いながら回るとうまくいく。これが『人具一体』さ」

 緊張するコロロちゃんをやさしくエスコートして、ノートの上にやってきたコンパ。
「ノートさん、また痛くするけど、ゴメンなさい」
「いいのよ。たくさんきれいな円を描いてね。コロロちゃんがんばって」
「ハイ。がんばります」
 プスリ
「あいたっす」
 ここでもとっさのときは出てしまう熊本弁。

「さあいくよ。くるーん、スー」
「く、くるーん、スーぅ」
 ちょっとスタートとゴールがずれてしまった。
「回転しはじめたらもっと体を倒して。さあ、くるーん、スー」
「くるーん、スーぅ」
「いいよ。いい感じ。さあ一緒に。息を吸ってえ」

「くるーん、スー!」
 二人の息はピッタリ、赤い線が滑らかなカーブを描いて、吸い込まれるように元の位置へ。
 みごとにスタートとゴールが決まった。
 きれいな円を描いた二人にカレンちゃんも大よろこび。もちろん、ノートさんも。

「やった。コロロちゃん。最高のパトナーだよ」
 アハ うれし♡
「さあ、もう一回いこう。くるーん、スー。そう、くるーん、スー」・・・

        *
 ここは学校
「先生」
「何?」
「さっきから、まさとくんがコンパス使って、なんかブツブツ言ってます」

「くるーん、スー。くるーん、スー」
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登場人物紹介

やっほい太郎 青い手動のえんぴつ削り パパさんが子供の頃家にやってきた  これまで削ってきたえんぴつは本人曰く50万本


コロロちゃん 赤えんぴつの女の子文具、短くなって冒険大好き

Bえんぴつくん こころやさしい男の子文具

まさとくん 文房具が大好きな小学2年生

パパさん まさとくんのパパ、文房具の大切さを教えてくれる

消しゴムのげんさん おっさん文具 口は悪いが人情に熱い

コンパスのコンパ 紳士文具 華麗なダンスで奇麗な円を描く 人具一体がポリシー

ノートさん おかあさん文具 使う人も文房具も、みんなの気持がわかる

ものさしの孫兵衛さん おじいちゃん文具 ずっと前から家にいる 今は孫の手がわり

ハサミくん 怖がりの男の子文具 バッサバッサと取り切りきざむハサミ男の正体

のりちゃん  やさしくてりんとした天使の女の子文具 ハサミくんと一緒にがんばる

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