第２９話　恋占いと赤とんぼ

こたろうは昭和文具店からパンチと一緒にやってきたミニえんぴつ削り。
まさとくんの机から飛び降りて猛突進だ。
だだだだだーっ
「おっ、くるぞ」
チョクンジャーたちがひるみながらも構えなおした。

すると、ヒラリと体をかわしてBえんぴつくんとカレンちゃんのもとへ。
「ナニ？」
芯の先をスッポリと包み込むとガリガリガリっと削っていく。
さすが切れ味抜群の中島重久堂のえんぴつ削り。
花びらの形をした削りカスがクルクルと途切れることなくあふれてきた。
それを見たチョークンジャーたち。
「わぁ、きれい」
赤チョークが思わず駆け寄った。
「ねえ、触ってもいい？」
丁寧に持ち上げカレンちゃんの削りカスを身にまとった。
「おっいいなぁ。ボクも」「ワタシも」
チョークンジャーたちはきれいな花びらをマントやスカーフにして決めポーズ。
こたろうも自慢げに一緒に、シャキーン！「えっへん」

「ああー、楽しかった」
フラワー戦隊にリニューアルしたチョークンジャーに手を振って、文房具たちはふたたび机並木を進んだ。
コロコロコロロ、カクカクカク。

この教室でこれまで何人の子供たちが学び、笑い、遊んだんだろう。
そんなことを考えながら、進んでいくとまさとくんの机のとなりからなんだかチラチラと視線を感じた。
「あ、もなみちゃんの消しゴムじゃない？」
こたろうがオーイと声をかけみんなで近寄った。
「こ、こんばんは」
恥ずかしそうにお辞儀をしたかわいいピンク色のもなみちゃんの消しゴム。
今日はみんなと同じように置いてきぼりにされたらしい。
花柄のケースで甘い香りのするかわいい文房具を前にして、大ちゃんは浮足立った感じで落ち着かない。イヤ、同じ消しゴムのげんさんまで。

そんな雰囲気に緊張気味のもなみちゃんの消しゴムに、突然こたろうがおどけて先生の真似をした。
「先生」
「何？」
アハハハハハ。アハアハ。
涙を流して笑うもなみちゃんの消しゴムにこたろうたちは「もなみちゃん」と呼ぶことにした。

みんな寝っ転がって天井を眺めながめながら一休み。
コロロちゃんの大ちゃんとチョークンジャーたちの内緒話ですっかり打ち解けて、今度は鬼ごっこが始まった。
わーい。
鬼はこたろう。元気いっぱいに追いかけて最初につかまったのは大ちゃん。
みんな次々につかまって最後のひとりはもなみちゃんだ。
追いかけるこたろう。逃げるもなみちゃん。

いきおいよくぎっとつかんだケースがずれて二人とも転んだ。
するとずれたところからなにやら文字が見えた。
「まさと？」
「あっ」必死でケースを上げて体をかくすもなみちゃん。
「ゴ、ゴメンなさい」
あやまるこたろうは頭がこんがらがった。
もなみちゃんのなのになぜまさとくんの名前が書かれているの？

そこへ、げんさんが飛んできた。
「二人とも元気がいいな。オレはもうヘトヘトだ」
肩を大きくゆすって、そしてやさしくもなみちゃんを見つめながら言った。
「もなみちゃん最後まで大切に使ってもらうんだぜ」
ウン。
こたろうは「？？？」
コロロちゃんとカレンちゃんは「そうなのね」とニッコリとつぶやいた。

「もうすぐクラスの音楽発表会だね」
話題をかえようとコロロちゃんが掲示板のポスターを指さした。
このクラスのピアノ伴奏はもなみちゃん。ピアノの先生をしているお母さんから一生懸命教えてもらっているのを消しゴムのもなみちゃんはずっとそばで見守っている。
「もしかしてピアノ弾ける？」コロロちゃんがたずねた。
照れくさそうに「ちょっとね」
丸い形の人差し指と親指はほとんどくっ付いている。
「ヨーシ、歌おうよ、みんな。曲は赤とんぼ」
うん、いいね。

ピアノの無い教室、オルガンの前にもなみちゃんが座った。
ブカブカと大きく息を吸って、吐いて、オルガンはいつものように笑いながら音を奏でた。

　ゆうやけこやけの赤とんぼ
　おわれてみたのはいつの日か

　やまのはたけのくわのみを
　こかごにつんだはまぼろしか

　じゅうごでねえやはよめにゆき
　おさとのたよりもたえはてた

　ゆうやけこやけの赤とんぼ
　とまっているよ　さおのさき

歌い終わってみんな窓の向こうの空を見上げた。
いつまでも、いつまでも、こうしていたいよね。