Ⅵ.コンビニと弁当とプリンと

文字数 859文字

 深夜のコンビニは客も少なくて楽だろうと思ったのに、仕事は多いし、客は面倒くさいし、サイアクだ。乾物、ドリンク、雑貨、雑誌、冷凍食品など、賞味期限に余裕がある商品がドカドカと、夜のうちに入荷される。発注数と揃っているか数を数え、棚に並べていくが、その間にも客はやってくる。
「こちら温めますか?」弁当を買った客にそう聞くと、不機嫌な顔で「おう」と返ってきた。僕の短いコンビニバイト経験によれば四~五十代以上の男性客に多い反応だ。
 弁当の温めと並行して、底が広いレジ袋を広げて受け入れ態勢を整える。その間に、客がおもむろにレジから離れ、スイーツコーナーからクリームプリンを持ってきた。
「こちら合わせまして六百四十五円になります。温かいものと袋をお分けしますか?」
「当たり前だろうが、俺に温まったプリンを食えってのか、コノ野郎。さっさと分けろ、このグズ!」
 突然の噴火である。この手の輩は日常的という程多くはないが、三ヵ月も働いていれば慣れるくらいには頻出する。「コノ野郎」とか「グズ」とまで言われるパターンは珍しいが。
 僕は顔面に笑顔を貼り付け、「大変失礼いたしました」と機械的に謝罪し、一番小さなレジ袋にプリンとプラスチックスプーンを入れた。
 客が去った後、同番勤務の先輩が「災難だったな」と声をかけてくれた。
「一応、注意しておくと、袋を分けるときの問いかけは『温かいものと袋をお分けして宜しいですか?』が正解だ。細かいけど、さっきみたいな客に暴言を言わせないためには大事なんだよ」
 なるほど、「お分けしますか?」は袋を分けるか分けないか、判断をまるごとお客に委ねる聞き方だが、「お分けしても宜しいですか?」は分けることをオススメしているけれど、お客から許可を取る聞き方になるため、さっきのようなイキった輩への牽制になる。
 コンビニスタッフなんて誰でも出来る簡単なバイトだと高を括っていたが、案外と奥深いものなのだな、と感心しつつ、やっぱ面倒くさいから明日から新しいバイトを探そう、と僕は心に決めた。
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