Ⅰ.いくらの軍艦巻き
文字数 809文字
大きな建物の隅にある小さな和室のテーブルの中央に、赤、白、ピンク、黄色と、色とりどりのお寿司がぎっしりと詰まった円い桶がある。
大好物を前に、四歳の幸一はもう我慢出来なかった。
「こうちゃん、お腹へった!」
ママが、寿司桶にかかっていたラップを外すのと、ほぼ同じタイミングで、幸一の手がイクラの軍艦巻きへと伸びる。
幸一は、お寿司の中でも、赤くて丸っこいイクラが特に好きだ。
一粒、一粒、宝石のようなイクラを口に運ぶ。上顎と舌でプチっと潰すと、口の中に塩気が広がった。
ただ、イクラはとても美味しいのだけれど、軍艦巻きは、海苔がうまく噛みきれなくて苦手だ。海苔で巻いていないイクラのお寿司があればいいのに、と思う。
続いて、蒸し海老を皿に運ぶ。
「ねえ、ママ、しっぽ取って」
普段であれば、エビのしっぽを取るのはパパの役目だが、パパがまだ寝ているため、幸一はママに取ってもらうことにした。
ママはしっぽを取ったあと、エビを外して、酢飯の上に乗っているわさびを丁寧に取り除いていく。
幸一は、ふと思いつき、再びイクラの軍艦巻きへと手を伸ばす。小さな腕に気付いたママの眉がピクリと動いた。
「こら、こうちゃん。そんなにイクラばっかり取らないで」
たしなめられた幸一は、首を左右に振って答える。
「違うの、イクラはパパが大好きだから、取っておいてあげるの」
ママの顔が表情を失い、次の瞬間クシャクシャになった。そのまま、覆い被さるように幸一を抱きしめた。
「そっか、こうちゃんは優しいね、パパが起きたら、イクラ、あげようね」
白い真珠のネックレスが、顔に当たってちょっと痛い。幸一がママの体を押して少し距離をとると、その頬が濡れていた。
「ママ、どうして泣いてるの?」
幸一が頭を撫でると、ママの目から再び涙が溢れてくる。
あとでパパを起こしにいこう。パパならきっと、ママを笑顔にしてくれる。
大好物を前に、四歳の幸一はもう我慢出来なかった。
「こうちゃん、お腹へった!」
ママが、寿司桶にかかっていたラップを外すのと、ほぼ同じタイミングで、幸一の手がイクラの軍艦巻きへと伸びる。
幸一は、お寿司の中でも、赤くて丸っこいイクラが特に好きだ。
一粒、一粒、宝石のようなイクラを口に運ぶ。上顎と舌でプチっと潰すと、口の中に塩気が広がった。
ただ、イクラはとても美味しいのだけれど、軍艦巻きは、海苔がうまく噛みきれなくて苦手だ。海苔で巻いていないイクラのお寿司があればいいのに、と思う。
続いて、蒸し海老を皿に運ぶ。
「ねえ、ママ、しっぽ取って」
普段であれば、エビのしっぽを取るのはパパの役目だが、パパがまだ寝ているため、幸一はママに取ってもらうことにした。
ママはしっぽを取ったあと、エビを外して、酢飯の上に乗っているわさびを丁寧に取り除いていく。
幸一は、ふと思いつき、再びイクラの軍艦巻きへと手を伸ばす。小さな腕に気付いたママの眉がピクリと動いた。
「こら、こうちゃん。そんなにイクラばっかり取らないで」
たしなめられた幸一は、首を左右に振って答える。
「違うの、イクラはパパが大好きだから、取っておいてあげるの」
ママの顔が表情を失い、次の瞬間クシャクシャになった。そのまま、覆い被さるように幸一を抱きしめた。
「そっか、こうちゃんは優しいね、パパが起きたら、イクラ、あげようね」
白い真珠のネックレスが、顔に当たってちょっと痛い。幸一がママの体を押して少し距離をとると、その頬が濡れていた。
「ママ、どうして泣いてるの?」
幸一が頭を撫でると、ママの目から再び涙が溢れてくる。
あとでパパを起こしにいこう。パパならきっと、ママを笑顔にしてくれる。