XII.覚悟の刃

文字数 796文字

 血と脂の臭いが混じった潮風が肌にねっとりと絡みつく。島の至るところに、斬り伏せられたばかりの死骸が転がっている。
 島の最奥では、大将同士の死闘が決着を迎えたところだ。
「待て、待ってくれ。財宝は渡すから、命だけは助けてくれ!」
「鬼よ、お前らが襲った街や村で、人が命乞いをしたとき、その命を見逃したか?」
 刀を鼻先に突きつけられた鬼は、その問いに言葉を詰まらせる。
「ふん。それに財宝は人から奪ったものではないか。ならば『渡す』ではなく『返す』が正しかろう。さて、その財宝の隠し場所だが――」
「ワオーーーーーン」少し離れたところから、犬の遠吠えが聞こえた。
「どうやら見つかったようだな。お前はもう用済みだ」
 鬼を威嚇していた刀がユラリと動く。これが弧を描くとき首と胴が別れる、そう確信出来るほどのハッキリとした殺意の刃。
「ダメーーー!!!」
 高い声が響き、洞窟の奥から鬼の子が飛び出してきた。
「ダメだ! 出てくるなと言ったろう!?」
「でも、だって、父ちゃんが!!」
「鬼の子、か。生かせば遺恨の種となろうな」
 刀の切っ先が鬼の子へ向く。
「やめろ……やめてくれ!!」
 鬼の悲痛な声が、辺り一体に響き渡る。
「父……ちゃん」
 父親の元へと駆け寄る、鬼の子の体が、腰元から上下に分断されズルズルと滑り落ちる。
「おおおおおああああああああっっっっ!!!!」
 我が子の躯を抱き寄せて、鬼が涙を流して咆哮した。
「そう悲しむでない、すぐ会わせてやる」
 鬼は、憎悪の炎に燃えた瞳で、子の仇を睨みつける。
「おのれ桃太郎……。許さんぞ……。オレの命は潰えても、地獄の底から貴様を末代まで祟ってやる!!」
「好きにせよ。鬼を皆殺しにきたのだ。それくらい覚悟しておるわ」
 白刃一閃。
 鬼の首が地面に転がった。しかし、その身体は依然、我が子を抱き締めたまま微動だにしなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み