マスコン

文字数 1,662文字

 皆さんもよくご存じのことだろうが、電車の運転手は、

『左手でマスコンを操作し、右手でブレーキ弁をあやつる』
(これを左マスコンと呼ぼう)

 一方で、機関車の機関手は左右が逆になり、

『右手でマスコンを、左手でブレーキ弁を操作する』
(右マスコンと呼ぼう)

 私の疑問は、

「電車とキハはなぜ『左マスコン』で、なぜ機関車は『右マスコン』であるのか」

 ということ。
 実はこれは私見ではあるが、

『イギリスの道路が左側通行であり、アメリカの道路が右側通行である』

 ことから始まっているようなのだ。

「なんでやねん!」

 というお声もありましょうが、お聞きあれ。

 ご存知の通りイギリスは左側通行で、馬車も荷車も道路の左側を通る。
 だから当然、複線の線路においても、列車は左側通行をするのが自然の成り行きであろう。
 時代はもちろん蒸気機関車だが、機関手席は運転台左右のどちら側が良いかというと、機関手の立場としては、

「線路外から不意に入り込んでくる人や荷車を1秒でも早く発見して、警笛を鳴らすなり、急ブレーキをかけるなりしたい」

 ので、そのためには機関手席は左側にあるのが都合がいい。
 その場合に運転台機器の配置がどうなるかというと、蒸気機関車の場合にはマスコンと呼ばず、加減弁というけれど、

『加減弁はロッドにつながり、そのロッドはボイラーの表面を走って、前方にある蒸気ドームに至って蒸気弁を開閉する』

 という構造。
 ボイラー表面を走るのだから、ロッドはボイラーから離れることができない。ずっとボイラーにくっついている。
 それゆえ加減弁も、ボイラーから離れることができない。
 だから、機関手席が左側にあるのであれば、自然と加減弁は右手で操作する形になる。
 当然、ブレーキ弁は、残った左手で操作する。

 こうやって、イギリス蒸気機関車の右マスコンが決まりました。
 ところが、アメリカは右側通行の国。

・アメリカの列車は、複線線路の右側を走る

・機関手は、線路の右側を重点的に監視したい

・それゆえ機関手は、運転台の右側に着席

・加減弁とロッドはボイラー表面を離れることができないので、機関手は左手で加減弁を操作するデザインになる
(左マスコン)

・残った手ということで、ブレーキ弁は右手であつかう

 こうしてアメリカにおいて、機関車の左マスコンが決まったのですが、

・世界で最初に電車を作ったのはアメリカ。アメリカの技術者たちは、何も考えずに蒸気機関車の設計を取り入れ、左マスコン、右ブレーキの電車を作ってしまう。

・その技術をそのまま日本が取り入れた。

・日本ではそれ以来、電車の左マスコンが今に至るも100年以上続いている。

 ということであろうかと。

 一方で日本のELとDLも、SLと同じ機関車の部類ということで、右マスコンが固定しました。
 当時はELやDLの機関手も、SLから乗り換えてきた人が多かったはずなので、右マスコンはさらに都合がよろしい。

 ついでのことを言うと、日本の機関車のブレーキ弁は、左手操作でないと困るのです。
 あなたが今、EF65の運転席に座って、そろりそろりとバックしながら、客車の先頭に連結されようとしているとします。

「連結まであと3メートル」

 あなたは窓を開け、身を乗り出して、後部を確認中。もしもその時、ブレーキ弁が左側になかったら?
 あなたの手はブレーキ弁に届かず、微妙なブレーキ加減どころか、ドカンと客車にぶつけてしまうかもしれません。
 その意味でも、機関車は右マスコン、左ブレーキでないと困るのです。

 EF58は湘南顔をして、しかも機械室部分に比べて、運転台部分は、前方へ向けてすぼまっている。
 それゆえEF58は、後進しつつ客車の先頭へ連結されるとき、いくら機関手が窓を開けて身を乗り出しても、ブレーキ弁がどうしても遠く、扱いずらいのだそうだ。
 もしかしたら、それがEF58の唯一の欠点かもしれない。


(2022年8月追記)
右マスコンは変わりませんが、SLのブレーキ弁が右にあることに気が付きました。議論全体を見直す必要がありそうです…

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