塗色
文字数 582文字
その昔、例外は多少あったとしても、電車というものはみな茶色をしておりました。
あっちを向いてもこっちを向いても、西を見ても東を見ても、みんな茶色塗装。
だけど戦後になり、新しい機運が芽生えました。
「電車は茶色じゃなくてもいいじゃないか」
新しい時代が、このとき花開いたのです。
突如として、日本中の電車があんな色、こんな色に塗られるようになりました。
これを「色の大爆発」と呼ぼうと思います。
私たちが知っている各私鉄の色とりどりの装いは、ここに始まるわけです。
その勢いは新製車ばかりでなく、ツリカケ式の在来車にまで及び、この時代の私鉄界はまるで花が咲いたようでした。
一方で、最初は全国的な勢力を誇っていた茶色電車軍団ですが、当然ながら自然に数を減らしていくことになりました。
一社、また一社と、電車を塗り替えてゆきました。
そして、最後に2社が残ります。どちらの会社が、最後まで茶色塗装の灯を守り続けるのでしょうか。
そんなことを思っていたら、ついに一社が塗装を変えたのが、私が若いころのことです。
「ついに敵の軍門に下りおったか…ぐぬぬ」
というのは私の身勝手で、やはり時の流れということなのでしょう。
こうなると、自動的に一社が残ります。孤塁を守るというんですかね。
「日本で唯一、茶色い電車が走る会社」
ということで有名になりました。
阪急のことですよ。