第19話 垂り雪 - 水泉動(しみずあたたかをふくむ)

文字数 416文字

 お社さんの境内では、持ち込まれた注連(しめ)飾りやらが囲いの中へ積みあげてある。火がつけられ、ひとびとの煙をいただこうとするのに習い、銀兵衛も掌をまあるくする。あたまに、こう、あたまにいただいたら、金兵衛さんのようになれるであろうか。
 わあっとはなやいだ声があがって、どこぞの坊が投じた書き初めが、よう燃えあがったらしかった。これで字が上手くなろうて、良かったの。

 いぶされた藁の匂い、舞う火の粉。炎をとおすと、あちら側に別の世があるように思われる。
 ざわめきが消えてゆく。まあるくしていたはずの手が、だらり、降りて、炎の韻律にあわせて肩が、腰が揺らぎ。
 かげろうて、うつろうて、ゆらりゆらゆら、鬼さん、鬼さん、手のなるほうへ。

 どう。
 ひとびとが振り返り、銀兵衛も音のほうへ体ごと向く。視界は広がって鮮やかな白を映し出した。

 軒下へ(しづ)った雪のかたまりの横で長兵衛が手を上げてみせる。
 いやはや、危ないところであった。


<了・連作短編続く>
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