第23話 氷の声 - 水沢腹堅(さわみずこおりつめる)

文字数 409文字

 銅十郎の手が、氷柱(つらら)を折りとった。このところ背丈が伸びて、高いところにも届くようになったものとみえる。太い方を握り、細い方を口の中へ入れる。
 うまいか。尋ねると、坊はにかっと笑う。
 長兵衛は小さめのやつを折り、同じようにする。
 
 おばあには、こいつの声が聞こえるんだ。
 怪訝な顔の長兵衛に向かって、坊はもう一度にかっと笑う。
 沢に氷が張った、軒に氷柱ができた、っていつもおばあが教えてくれる。
 お(とう)もおっ(かあ)も、おばあには氷の声がわかるんだ、って言うよ。(あに)いもお(ねえ)も、おれも、どんなに耳をすましたって聞こえやしないんだ。でも外へ出てみると、そのとおりになってる。
 おばあはもう耳が遠いし、目も薄いのにな。すごいだろ。おれもそんなふうになりたいって言ったら、銅十郎、おまえ次第だよって。だからせっせと氷柱を食うているんだけどなあ。

 溶けそうな欠片を噛み砕くことはせず、長兵衛はじっと心を澄ましてみる。
 

<了・連作短編続く>
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