第24話 明告鳥 - 鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)

文字数 424文字

 手拭いを桶に浸しては絞る。もう幾度となく繰り返しているのだが、熱うなった額が、すぐにぬくめてしまう。
 幼馴染の久兵衛の傍で、金兵衛は夜通し淡々と繰り返す。空が白みはじめた頃、やっとで息遣いが落ち着いてきた。
 すまんのう、金兵衛。お主にかような迷惑をかけようとは。
 なに、やもめ同士、お互いさまであることよ。
 半身を起こした久兵衛に、()かし()ましを入れた湯呑みを渡してやる。

 冬というものは、からだの芯から力を奪っていくようなところがある。それならば己に鞭打って鍛錬せよ、ということかといえば、そうとも限らぬ。下手に振り絞れば、枯渇してしまうやもしれぬのでな。暖かくなったとき芽をだすものがなくなるような真似をしてはならぬのだ。
 無理がたたったのであろうよ。今は、蓄えどきだと思えばよい。こころ痛めることではないぞ。

 トウテンコー。甲高い鳴き声が冷えた空気の中を走っていく。
 卵を手に入れてさしあげようと長兵衛は歩き出した。 
 

<了・連続短編続く>
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