第6話 銀杏羽 - 虹蔵不見(にじかくれてみえず)

文字数 400文字

 白い月の前を、ぼんやりと鱗雲(うろこぐも)が流れてゆく。ちと、鱗が大きい。雨になるのやもしれぬ。これからは虹を見かけることも少なくなる。上流にいることの多かった水鳥たちが、流れが平地に差し掛かるあたりに姿を見せるようになった。
 長兵衛は、鳥のあとに生まれる水紋に黄色い葉がおどるのを眺めている。
 かさ、かっさ。
 あしおとに続いて、おお、長兵衛さん、と呼びかけてきたのは反物屋の旦那であった源兵衛。早々に隠居して道楽の染め物をしているのだが、これがまた評判をよび、それなりに繁盛している。
 源兵衛は挨拶もそこそこに、長兵衛の足元に目を遣る。
 訝しむ長兵衛をよそに、源兵衛は鮮やかな何かをつまみあげる。銀杏羽(いちょうば)です、おしどりですわ。いやこういう色合いが出せたなら、さぞかし長兵衛さんにお似合いでしょうな。
 
 まうえに立っておりながら、(わし)には紅葉(もみじ)にしか見えなんだ。
 いやはや、と長兵衛は独りごちた。

 〈了・連作短編続く〉
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み