2-3 孫で妹
文字数 3,866文字
放課後になって、蕾生 と永 は昇降口で身を潜めながらある一団の様子を伺っていた。
「どれだよ?」
蕾生が柄にもない小声で尋ねると、正門へと向かう通路の脇にある花壇を指差して、やはり小声で永が答えた。
「あの、ボブカットの子!」
その視線の先にはジャージ姿の女生徒が数人。花壇の花を植え替えている。
さらにその指が示しているのは、肩にかかるくらいのふわふわの髪に笑顔をたたえる女子がいた。周りの女子達と親しそうに話しながら花の世話をしている。
「あれが──?」
「銀騎 星弥 。銀騎研究所の関係者。詮充郎 の孫で、皓矢 の妹」
件の人物を認識した蕾生は、それまでに抱いていた銀騎研究所のイメージを覆すような雰囲気の彼女に感嘆の声を漏らした。
「へえ……」
「可ン愛いよね?」
「べ、別に普通じゃね?」
永に言われて思わず頷きそうになった所を堪えたので、蕾生はどもってしまった。
「ああ、ライくんの好みなんだね」
「べ、別に普通じゃね?」
それ以外の言葉が浮かんでこない蕾生をニヤニヤと見ながら永は説明する。
「あの子さあ、園芸部じゃないんだよ。なのにお手伝いで花植えたりしてんの。普通する?そんなこと」
「さあ……花が好きなんだろ」
永の言い方にトゲのようなものを感じて、蕾生は首を傾げる。
「僕の調べでは、入学してから今まで、彼女を悪く言う人がいない。それどころかクラスの中ではぶっちぎりの好感度を獲得してるらしい」
「一ヶ月かそこらでか?」
「確かに可愛いけど、彼女より可愛い子は他に何人もいる」
「はあ……」
どんどんトゲを増してくる永の言葉。女子には平等に優しい永が珍しいなと蕾生は思った。
「容姿はそこそこなのに、性格がずば抜けていいんだって。実家が超絶金持ちなのに全然嫌味がないって」
「お前、すごいな……」
別のクラスの女子にそこまで、と蕾生は半ば呆れてしまった。
「乙女ゲームの主人公みたいって言えばわかる?」
「いや、ますますわかんね」
永のたとえはわからないが、とにかく稀有な女子であることは伝わった。
確かに永はそういう人物は好かないかもしれない。結局、自分より完璧な人物の存在が気に食わないのだろう。
欠点がない人間は逆に不気味だということだ。ただ、彼女の場合は銀騎憎しで永が冷静ではない可能性もあるが。
「とにかく、あの子とお近づきになって、オトモダチとしてあの子の家に遊びに行く。それが最初のミッション!」
穴だらけの計画に蕾生はかなり不安になっていた。
「なんで俺が?口のうまいお前の方が適任だろ?」
「いやあ、彼女、僕みたいに胡散臭いのは嫌いだと思うんだよねえ」
「自覚あったのか……」
永はとにかく弁が立つ。そのせいで男子の受けはあまり良い方ではない。
その代わり女子にはそのトーク力で結構人気があるのだが、男子から見れば口先だけの胡散臭いヤツというのが永の総評だ。
そして図体がでかくて怖い蕾生を従えていることで、中学時代はまあまあ煙たがられていた。
「目が笑ってない僕よりも、ちょっと不良っぽいけど純朴なライくんの方がウケがいいはず!」
「今、話しかけるのか?」
蕾生は心底気が進まないのに、永は構わずに作戦を述べる。
「いや、とりあえず、一人淋しそうにあの集団の前を横切って。視線は花に。なんかちょっと可愛いものを見るような目で!」
「えええー」
それに一体なんの意味があるのか。蕾生は本当に嫌だった。
「ほら、早く行って!」
背中を押されて蕾生は渋々歩き出す。花壇の前まで行くととりあえず女子達の前で立ち止まった。
「?」
それまで花に集中していた女子達は突然現れた大きな人影に気づいて顔を上げた。
女子達から一斉に視線を浴びた蕾生は、緊張で顔が強張った。客観的に見て「ガンを飛ばす」ような状態である。
「!」
一人は驚愕し、また一人は明らかに怯えていた。だが、銀騎星弥だけは物怖じせずに蕾生をじっと見つめていた。
「──!」
目があったものの、どうしていいかわからず、蕾生はプイとそっぽを向いて花壇を通り過ぎ、正門の方へ向かった。
「何、今の」
「たしか隣のクラスの……」
「やだ、怖い……」
口々に女子達が蕾生に嫌悪の感情を向ける。ただ、銀騎星弥だけは目を丸くさせながらも肩で風切って歩いていく蕾生の背中を見送っていた。
「だめかも……」
一部始終を見届けた永は肩を落とした後、急いで裏門を通って外から蕾生の待つ正門へと向かったのだった。
「な?ダメだったろ」
永と合流した蕾生はすっかり不貞腐れていた。
「うーん、怖そうに見える男子が実は草花好きで意外と可愛いところがあるのね作戦だったんだけどなー」
永はがっかりと肩を落として見せる。そのわざとらしい仕草から、もしかして遊ばれたかもとも思って蕾生はますます不機嫌になる。
「周りくどすぎるだろ!お前が得意のおしゃべりでいけ」
「どうかなー、自信ないなー」
蕾生が詰め寄っても永はのらりくらりとしてあまり積極的ではない。
「なんでだよ、しゃべりで女子と距離つめるの得意だろ?」
「うーん、そこらの女の子なら楽勝なんだけど、彼女の雰囲気が苦手っていうか……」
「好感度のかたまりみたいなヤツなんだろ?」
「いやー、なんか苦手な気がするんだよね。話したこともないんだけど」
全く煮え切らない態度の永は初めて見た気がする。いつもの大胆で口八丁に相手を丸め込む手口を出そうとしないことが蕾生は不思議で仕方ない。
「じゃあ、どうすんだよ。さっきので俺の印象最悪になってんぞ。どうやって挽回すんだよ」
「やっぱり、ねえちゃん俺と付き合えよ、キャー助けてそこの怖そうな男子作戦かなあ」
さらに穴が空いた作戦を口にする永に蕾生は呆れた。
「絶対、やだ」
「えー」
「真面目にやれよ。もう直接話しかければいいだろ」
「ライくんが?」
期待を込めた視線を向けた永を蕾生はばっさりと切り捨てた。
「俺が女子と話せると思うか?お前が銀騎博士のファンなんですーって軽めにいけばいい」
「えー、ライくんに指示された。いつもと逆だあ」
「逆じゃない、口での攻撃はお前の領分!」
蕾生の言葉が最後通告になった。永は観念したように頷く。
「……そうだったね。僕が頭でライくんは腕」
「ん」
やっと腹をくくったらしい永に、蕾生も満足そうに頷いた。
「じゃあ、とりあえず下校するのを待ち伏せ──」
「あのー」
永が時刻を確認しながらこの後のプランを立てようとしたその時、蕾生の後ろからひょっこり顔を出す人物がいた。銀騎星弥だった。
「ヒエッ!」
突然の本人登場に、さすがの永も素っ頓狂な声が出た。
蕾生も反射的に後ろを振り返る。完全に不意をつかれて蕾生の方は声も出なかった。
「ああ、よかった、追いついて。えっと、三組だよね?」
銀騎星弥は蕾生の方を見て、屈託なく尋ねる。
「あ、ああ……」
まさか向こうの方から話しかけてくるとは夢にも思わないので、蕾生は頷くことしかできなかった。
「三組の学級委員の人に伝えて欲しいんだけど、生徒会が配った一年生のアンケートがまだ出てなくて──」
「あ、学級委員ならこいつ」
奇跡的に永にバトンタッチできるキーワードが彼女から紡がれたので、蕾生は反射的に話題を振った。
「ああ!そう、ハイ、僕です」
永もまだ面食らった表情のまま慌てて手を上げる。
「そうなの?わあ、ちょうどよかった。クラスで集めて明後日くらいまでに生徒会に出してくれる?」
銀騎星弥は両手をパンと叩いて晴れやかな笑顔を見せる。
「ああ、遅れてゴメンナサイ。でもなんで銀騎さんが?」
「あ、わたし、役員じゃないんだけど、たまにお手伝いしてるの。一年生の連絡係みたいな」
「へえー、そうなんだー!」
予定にない出来事が起きたせいで永も舞い上がってしまったのだろう、人をくったような皮肉はおろか女子限定の褒め言葉すらも出てこない。
この調子では今日のうちにお友達になるなんて無理だな、と蕾生は思った。
「じゃ、じゃあ、集めたら銀騎さんに渡せばいいかな?」
それでもなんとか明日に繋げようと永はどもりながら尋ねる。
「え?あ、うん、それでもいいよ。えっと……」
「あ、僕、周防 永 。こっちのでっかいのは唯 蕾生 っていうの」
自己紹介にこぎつけたところで、永にやっと余裕が出てきたのがわかった。それで蕾生も少し冷静になり、軽く頭を下げた。
「周防くんと、唯くん……だね。それじゃよろしくね。呼び止めてごめんね」
「いいええ、どうもお疲れさんです」
永が愛想よく手を振ると銀騎星弥も軽く手を振って足早に花壇へと戻っていった。
その姿を見送って、蕾生はやはり彼女の何が永を混乱させるのか実際に会話してみてもよくわからなかった。
「はあー!やっぱだめだ、あの子、僕苦手」
永はどっと疲れたような顔で、肩で息を吐く。
「永、どうした?いつもの余裕が全然なかったな」
「……なんだろうね、銀騎の関係者だって思うから変に緊張するのかな」
「そうなんじゃねえの?とにかくもう一度話しかける機会ができたな」
「そうだね、ラッキー。じゃあ、帰りながら明日の対策をたてようか」
永は蕾生との会話で元の落ち着きを取り戻していた。
「なるべく自然なやつな」
「わかってるって!」
もうすぐ陽が落ちる。明日こそはこっちが主導権をとってやるんだと永は意気込んでいた。
「どれだよ?」
蕾生が柄にもない小声で尋ねると、正門へと向かう通路の脇にある花壇を指差して、やはり小声で永が答えた。
「あの、ボブカットの子!」
その視線の先にはジャージ姿の女生徒が数人。花壇の花を植え替えている。
さらにその指が示しているのは、肩にかかるくらいのふわふわの髪に笑顔をたたえる女子がいた。周りの女子達と親しそうに話しながら花の世話をしている。
「あれが──?」
「
件の人物を認識した蕾生は、それまでに抱いていた銀騎研究所のイメージを覆すような雰囲気の彼女に感嘆の声を漏らした。
「へえ……」
「可ン愛いよね?」
「べ、別に普通じゃね?」
永に言われて思わず頷きそうになった所を堪えたので、蕾生はどもってしまった。
「ああ、ライくんの好みなんだね」
「べ、別に普通じゃね?」
それ以外の言葉が浮かんでこない蕾生をニヤニヤと見ながら永は説明する。
「あの子さあ、園芸部じゃないんだよ。なのにお手伝いで花植えたりしてんの。普通する?そんなこと」
「さあ……花が好きなんだろ」
永の言い方にトゲのようなものを感じて、蕾生は首を傾げる。
「僕の調べでは、入学してから今まで、彼女を悪く言う人がいない。それどころかクラスの中ではぶっちぎりの好感度を獲得してるらしい」
「一ヶ月かそこらでか?」
「確かに可愛いけど、彼女より可愛い子は他に何人もいる」
「はあ……」
どんどんトゲを増してくる永の言葉。女子には平等に優しい永が珍しいなと蕾生は思った。
「容姿はそこそこなのに、性格がずば抜けていいんだって。実家が超絶金持ちなのに全然嫌味がないって」
「お前、すごいな……」
別のクラスの女子にそこまで、と蕾生は半ば呆れてしまった。
「乙女ゲームの主人公みたいって言えばわかる?」
「いや、ますますわかんね」
永のたとえはわからないが、とにかく稀有な女子であることは伝わった。
確かに永はそういう人物は好かないかもしれない。結局、自分より完璧な人物の存在が気に食わないのだろう。
欠点がない人間は逆に不気味だということだ。ただ、彼女の場合は銀騎憎しで永が冷静ではない可能性もあるが。
「とにかく、あの子とお近づきになって、オトモダチとしてあの子の家に遊びに行く。それが最初のミッション!」
穴だらけの計画に蕾生はかなり不安になっていた。
「なんで俺が?口のうまいお前の方が適任だろ?」
「いやあ、彼女、僕みたいに胡散臭いのは嫌いだと思うんだよねえ」
「自覚あったのか……」
永はとにかく弁が立つ。そのせいで男子の受けはあまり良い方ではない。
その代わり女子にはそのトーク力で結構人気があるのだが、男子から見れば口先だけの胡散臭いヤツというのが永の総評だ。
そして図体がでかくて怖い蕾生を従えていることで、中学時代はまあまあ煙たがられていた。
「目が笑ってない僕よりも、ちょっと不良っぽいけど純朴なライくんの方がウケがいいはず!」
「今、話しかけるのか?」
蕾生は心底気が進まないのに、永は構わずに作戦を述べる。
「いや、とりあえず、一人淋しそうにあの集団の前を横切って。視線は花に。なんかちょっと可愛いものを見るような目で!」
「えええー」
それに一体なんの意味があるのか。蕾生は本当に嫌だった。
「ほら、早く行って!」
背中を押されて蕾生は渋々歩き出す。花壇の前まで行くととりあえず女子達の前で立ち止まった。
「?」
それまで花に集中していた女子達は突然現れた大きな人影に気づいて顔を上げた。
女子達から一斉に視線を浴びた蕾生は、緊張で顔が強張った。客観的に見て「ガンを飛ばす」ような状態である。
「!」
一人は驚愕し、また一人は明らかに怯えていた。だが、銀騎星弥だけは物怖じせずに蕾生をじっと見つめていた。
「──!」
目があったものの、どうしていいかわからず、蕾生はプイとそっぽを向いて花壇を通り過ぎ、正門の方へ向かった。
「何、今の」
「たしか隣のクラスの……」
「やだ、怖い……」
口々に女子達が蕾生に嫌悪の感情を向ける。ただ、銀騎星弥だけは目を丸くさせながらも肩で風切って歩いていく蕾生の背中を見送っていた。
「だめかも……」
一部始終を見届けた永は肩を落とした後、急いで裏門を通って外から蕾生の待つ正門へと向かったのだった。
「な?ダメだったろ」
永と合流した蕾生はすっかり不貞腐れていた。
「うーん、怖そうに見える男子が実は草花好きで意外と可愛いところがあるのね作戦だったんだけどなー」
永はがっかりと肩を落として見せる。そのわざとらしい仕草から、もしかして遊ばれたかもとも思って蕾生はますます不機嫌になる。
「周りくどすぎるだろ!お前が得意のおしゃべりでいけ」
「どうかなー、自信ないなー」
蕾生が詰め寄っても永はのらりくらりとしてあまり積極的ではない。
「なんでだよ、しゃべりで女子と距離つめるの得意だろ?」
「うーん、そこらの女の子なら楽勝なんだけど、彼女の雰囲気が苦手っていうか……」
「好感度のかたまりみたいなヤツなんだろ?」
「いやー、なんか苦手な気がするんだよね。話したこともないんだけど」
全く煮え切らない態度の永は初めて見た気がする。いつもの大胆で口八丁に相手を丸め込む手口を出そうとしないことが蕾生は不思議で仕方ない。
「じゃあ、どうすんだよ。さっきので俺の印象最悪になってんぞ。どうやって挽回すんだよ」
「やっぱり、ねえちゃん俺と付き合えよ、キャー助けてそこの怖そうな男子作戦かなあ」
さらに穴が空いた作戦を口にする永に蕾生は呆れた。
「絶対、やだ」
「えー」
「真面目にやれよ。もう直接話しかければいいだろ」
「ライくんが?」
期待を込めた視線を向けた永を蕾生はばっさりと切り捨てた。
「俺が女子と話せると思うか?お前が銀騎博士のファンなんですーって軽めにいけばいい」
「えー、ライくんに指示された。いつもと逆だあ」
「逆じゃない、口での攻撃はお前の領分!」
蕾生の言葉が最後通告になった。永は観念したように頷く。
「……そうだったね。僕が頭でライくんは腕」
「ん」
やっと腹をくくったらしい永に、蕾生も満足そうに頷いた。
「じゃあ、とりあえず下校するのを待ち伏せ──」
「あのー」
永が時刻を確認しながらこの後のプランを立てようとしたその時、蕾生の後ろからひょっこり顔を出す人物がいた。銀騎星弥だった。
「ヒエッ!」
突然の本人登場に、さすがの永も素っ頓狂な声が出た。
蕾生も反射的に後ろを振り返る。完全に不意をつかれて蕾生の方は声も出なかった。
「ああ、よかった、追いついて。えっと、三組だよね?」
銀騎星弥は蕾生の方を見て、屈託なく尋ねる。
「あ、ああ……」
まさか向こうの方から話しかけてくるとは夢にも思わないので、蕾生は頷くことしかできなかった。
「三組の学級委員の人に伝えて欲しいんだけど、生徒会が配った一年生のアンケートがまだ出てなくて──」
「あ、学級委員ならこいつ」
奇跡的に永にバトンタッチできるキーワードが彼女から紡がれたので、蕾生は反射的に話題を振った。
「ああ!そう、ハイ、僕です」
永もまだ面食らった表情のまま慌てて手を上げる。
「そうなの?わあ、ちょうどよかった。クラスで集めて明後日くらいまでに生徒会に出してくれる?」
銀騎星弥は両手をパンと叩いて晴れやかな笑顔を見せる。
「ああ、遅れてゴメンナサイ。でもなんで銀騎さんが?」
「あ、わたし、役員じゃないんだけど、たまにお手伝いしてるの。一年生の連絡係みたいな」
「へえー、そうなんだー!」
予定にない出来事が起きたせいで永も舞い上がってしまったのだろう、人をくったような皮肉はおろか女子限定の褒め言葉すらも出てこない。
この調子では今日のうちにお友達になるなんて無理だな、と蕾生は思った。
「じゃ、じゃあ、集めたら銀騎さんに渡せばいいかな?」
それでもなんとか明日に繋げようと永はどもりながら尋ねる。
「え?あ、うん、それでもいいよ。えっと……」
「あ、僕、
自己紹介にこぎつけたところで、永にやっと余裕が出てきたのがわかった。それで蕾生も少し冷静になり、軽く頭を下げた。
「周防くんと、唯くん……だね。それじゃよろしくね。呼び止めてごめんね」
「いいええ、どうもお疲れさんです」
永が愛想よく手を振ると銀騎星弥も軽く手を振って足早に花壇へと戻っていった。
その姿を見送って、蕾生はやはり彼女の何が永を混乱させるのか実際に会話してみてもよくわからなかった。
「はあー!やっぱだめだ、あの子、僕苦手」
永はどっと疲れたような顔で、肩で息を吐く。
「永、どうした?いつもの余裕が全然なかったな」
「……なんだろうね、銀騎の関係者だって思うから変に緊張するのかな」
「そうなんじゃねえの?とにかくもう一度話しかける機会ができたな」
「そうだね、ラッキー。じゃあ、帰りながら明日の対策をたてようか」
永は蕾生との会話で元の落ち着きを取り戻していた。
「なるべく自然なやつな」
「わかってるって!」
もうすぐ陽が落ちる。明日こそはこっちが主導権をとってやるんだと永は意気込んでいた。