モリアーティーと戦うという事。

文字数 1,586文字


「それは……………一体?」
 あまり言葉の意味を理解したくない。
 実践?実戦?
 「つまり、こういう事さ。
 お遊びの剣術では無く、本気の勝負をしたいと。」
 木剣で『本気の勝負』?
 何を言っているんだ?この娘は?
 「木剣での戦い。
 確かに訓練にはなるが、皆、真剣味が少ない。
 正直に言えば、皆様剣術ばかりで剣の鍛錬に成らない。
 でも、君なら大丈夫そうだ。
 本気を出してもそう簡単には負けなさそうだ。」
 つまり………………何か?
 『今までは本気じゃ無かったから本気でやりましょう。
 本気じゃ無かったから私は偶々負けただけで、本気ならお前の様な奴に負ける訳が無いんだ。』
 と言いたいのか。
 ハハ…………ハハハハハハハハハハハハハ!!!!
 …………身の程を知れ。
 『モリアーティー剣術』の氷山の一角程度では力の差が解らなかったか……………………。
 「では…………ご指導ご鞭撻の程宜しくお願いします。」
 木剣を構える。
 例え木剣だとしても人を殺すには十分だと知れ。
 凶器を持つなら殺す覚悟、そして、殺される覚悟をしておけ。
 今君の手には命が握られている。それは他人の命、自分の命、両方だ。
 なにより、『基本その6:不意打ちの失敗=即撤退』だ。
 最初の不意打ち、アレを防がれた時点で君と僕との力量を測れて欲しかったものだ。
 無防備状態の私VS全力の剣嬢が互角。
 ならば、正面から殺りあえば…………火を見るより明らかという話だ。


 「ハッ!」
 相手は一息で距離を詰めて突きを繰り出す。
 狙いは心臓。しかし、当たらない。
 カキン
 木剣の切っ先が弾かれる。
 突きは殺傷力に関しては一級ではあるが、剣側面を払われたり、そもそも軌道を読まれて躱され、突きのモーション中のノーガード状態の所を切り刻まれる可能性が有る。
 そう、こうやって!
 突きを正面から受けず、敢えて切っ先の横を触れる様に|弾き、剣線を逸らす。そうして隙だらけの脇腹に軽く一刀。
 しかし、これを剣嬢、身体を反らせて強引に避ける。
 …………これ位は問題無いか。
 騎士団の娘の剣術の水準を見るには十分だ。
 この学園内。というか、シェリー君から余り離れる訳にはいかない私にとって、例え一人であってもそれなりのデータには成る。
 最小値程度には。

 「ハッ!」
 姿勢はナクッテよりマシ。
 カンカンカン!と乾いた剣戟の音が響く。
 しかしその大半が軽い。
 無論、膂力はあるし、当たれば木剣と言えど致命的だ。
 重量としては重い。
 しかし、剣嬢のは木剣として重いだけ。
 命のやり取りという雰囲気は無い。緊張感が無い。真剣さが文字通り無い。
 ただ、自分を虚仮にした奴、気に入らない奴を害して喜ぼうとしているだけのチャンバラごっこ。
 真剣の意味を解っていない。
 「シェリー君。」
 「はい?」
 「真剣勝負、金属の剣で斬り合いをしたら…敗者はどうなるかね?」
 私の急な質問に彼女は少し考えこう言った。
 「それは…殺し合いなのでは?
 真剣で戦えば敗者は最悪死にますよね?」
 「あぁ、最悪どころか、『余程幸運ならば死なない可能性が有るかもしれない!』という程度に死ぬとも。」
 そう、剣嬢は殺し合いを考えていない。
 まるで演舞。
 決まった行動を行うだけで応用性や戦略性が皆無だ。
 上段、横薙ぎ、斬り上げ、突き…部品を継ぎ接ぎで繋げただけ。
 フェイントも剣戟一つに一度や二度。刀身での攻撃のみ。視線の誘導も甘く、剣術の教科書一ページ目を開いた時に見られる光景の様。
 これで真剣やら実践を謳うならば抱腹絶倒だ。

 「さぁ、早く攻めてくるんだ!!
 守るばかりで、攻めが無い。さっきから防戦一方だぞ!」
 見えてないのか?
 さっきからこちらは初めに立った場所から一歩も動かず、しかも片手で剣を持って相手をしているのに。
 やれやれ、真剣の重みを教えてやろう。
殺し合い(真剣勝負)を教えてやろう。

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登場人物紹介

本作主人公にして最凶の悪役、モリアーティー教授。

異世界に飛ばされ、自分の正体を知らない幽霊となっているものの、類稀なる非道な知識の数々で未知の魔法世界でシェリー嬢をバックアップする。

チートこそ無いが、それに匹敵する頭脳を持つ知性の怪物。


魔法とて所詮は手段の一つ。今更一つ増えた程度で私の数式は揺らがない。

本作もう一人の主人公にしてヒロイン、シェリー=モリアーティー。

いじめを苦に自殺しようとしていた所を教授に止められた特待生の平民令嬢。

教授の知識を叩き込まれて徐々に成長していく。


教授に毒されそうで危険

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