悪党の格と空から降って来た女の子

文字数 1,252文字



人の泣き喚く姿、人が僅かな希望を喪って跪く姿、信頼する人間に裏切られて絶望する最期の姿……………………他人(ひと)が大切な何かを喪い、心から死に絶える瞬間は素晴らしく醜く、無様で、みっともなく、それ故に私は愉しくてしようがない!


が、目の前の小僧には全く共感できない。


何故なら、私が愉しいのは、満たされ、どころか醜く肥え太って他人を陥れ、辱しめ、踏みにじる側の輩を、搾取する(・・・・)側を破滅させる瞬間であるからだ。
要は、錆びた鉄屑で怯えた爺を害して喜ぶ小物とは相容れない。 どうせ破滅を見るならば、たかが過疎化した田舎村の村長よりも、一国、しかも周辺諸国に脅威とされるような一国の王を破滅させ、国ごと滅ぼす方がずっと良い。
『弱い者虐め』?私の数学書にはそんな文字は存在しない。
『国堕とし』・『他人の不幸は蜜の味』なら有るがね。
さぁて、目障りな小物は黙らせると………まぁ、不要か。
錆びた鉄屑を突きつけ笑う小僧の背後上空からフワリと何かが落ちた。



ゴッ(ゴッ)



鈍い2つの音が1つに重なり、小僧は気付く間も無く意識を刈られて地面に叩き付けられた。
「私にも…切れる堪忍袋の緒は有ります。」
落ちて来たのはシェリー君、2発喰らわせたのもシェリー君。
それはそれは無音で強力な、見事な不意打ちだった。







我々が何処に隠れていたか?
人間だけでなく、荷物も隠さねば存在が露見する状況下で、ロクに隠れ場所も無い中、シェリー君が選んだのは………上だった。
梁の上、荷物(+熊)を糸で滑車の要領で引き揚げ、その後、身軽な自分は自力で跳び上がった。
跳ぶのも、ただ跳んだわけではない。
梁の上まで補助無しに跳びあがる。なんて芸当は出来ない。

覚えているだろうか?脳筋の使っていた身体能力を強化する魔法の事を。
あれを見たシェリー君はそこから自力で学び、短時間だけ、自身の身体能力を跳ね上げることに成功していた。

それを用いて、兎真っ青な跳躍を可能にしたシェリー君は、一跳びで梁まで飛び上がった。というわけだ。

私は無論関与していない。
『隠れるとしよう。』そんな事を提案する前にシェリー君は持ち物を糸で縛り、梁の上にそれを滑車よろしく持ち上げ、その糸の一端をくくり付け、魔法で跳躍。そして荷物についている糸を引っ張って糸を回収。証拠隠滅をして、息を潜めて押し込み強盗の暴徒をやり過ごし…………ていたのだが、小僧が剣を抜いた辺りでシェリー君の堪忍袋の緒が引き千切れ、梁から音も無く飛び降り、落下の勢いを利用して頭を揺らした訳だ。
これが複数名を相手にしたものならば悪手だが、一人相手ならこれでまぁ十分だろう。
「……………シ…………ェリー、ちゃん?」
蒼白な顔と涙で酷い事になっている村長はシェリー君を見て混乱と恐怖でどんな顔をしていいのか、どんな感情を露わにすれば良いのか解らないで居る。
剣を突き付けられて殺されかけ、と思ったら久々に会った平凡な少女が明らかに素人では無い動きで小僧を仕留めた。
小さな村であろうが大きい都市であろうが、そんな劇的な刺激には滅多にお目にかかれまい。
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登場人物紹介

本作主人公にして最凶の悪役、モリアーティー教授。

異世界に飛ばされ、自分の正体を知らない幽霊となっているものの、類稀なる非道な知識の数々で未知の魔法世界でシェリー嬢をバックアップする。

チートこそ無いが、それに匹敵する頭脳を持つ知性の怪物。


魔法とて所詮は手段の一つ。今更一つ増えた程度で私の数式は揺らがない。

本作もう一人の主人公にしてヒロイン、シェリー=モリアーティー。

いじめを苦に自殺しようとしていた所を教授に止められた特待生の平民令嬢。

教授の知識を叩き込まれて徐々に成長していく。


教授に毒されそうで危険

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