ナクッテ
文字数 1,857文字
「はいはいはい!どういたしまして?ミス=シェリー?
攻めなくては一向に勝てなくってよ!」
木剣を構え、動きやすい服に身を包んだナクッテ嬢がシェリー君に斬りかかる。
カン!カン!カン!
シェリー君は必死に自分の手にある木剣で猛攻を凌いでいるが、遊ばれている。
剣術というよりは、暴行に近い。
現在、シェリー君は剣術の授業の最中だった。
淑女に何故剣を持たせるんだ?という話だが、
『淑女たるもの、自分の身は自分で最低限守るもの』
というのが学園の主張らしい。
という訳で、今現在、学園のグラウンドにて剣術が行われていた。
屋外に出た令嬢達が木剣を握りしめ、相手に斬りかかる様子はとても異様な光景だと言わざるを得ない。
この授業は、大半が実践。
つまり、二人一組になって木剣を握って斬り合うというものだった。
『剣術』それは剣で相手を害する事を主とした行動になっている。
『手に殺傷力十分な凶器を持ち、相手を害する。』
それはつまり、合法的な暴行に成り得る。
『授業の一環』・『親切に教えているだけ。』
その呪文はただの暴行に正当性を与える。
「剣術の試合において、攻めざるは敗北でしてよ!ホラホラホラホラ!」
こんな風に、攻めが苛烈になっていく。
「…………………………………!!」
必死に反撃の隙を伺うが、シェリー君には少し荷が重い。
剣術は本を読んで如何こうなるものでは無い。
対学問。教育機関の学問限定であれば、教科書を丸暗記すれば、その中の公式を、出された問題に落とし込めば十分以上に対応できる。
しかし、対人となると、話は別だ。
相手の身長や手足の長さや利き手と言った変数がそもそも人によって違う。
間合いがそもそも違って来る。
学園で教えている剣術以前に、本来、相手が知っている剣術が有る可能性もある。
そして、相手が知っている剣術も流派によって全く動きが違って来る。
これだけのバラバラで複雑な変数を詰め込んだ、しかも、自分より経験の有るであろう相手の攻撃を凌ぎ、
自身の最低限の剣術の知識を用いて相手を斬る。(しかも、相手は攻撃時同様の複雑な変数で防御もして来る)
それを、一瞬で変化する変数を観測し、瞬時に計算。最適解を導き出して実行。
今のシェリー君には難しい。
「ホラホラホラ!剣もまともに握れないのでして?……………そうでした。
あなたは下民の出でした。そうでした。
下民風情に貴族の娘の水準を要求してはかわいそうでしたわ。ごめんなさい。
悪気は無くってよ!」
ゴッ
シェリー君の防御の隙を突いて利き手に木剣を叩きつける。
「クッ!」
カラン
手に持った木剣が叩き落される。
ナクッテ嬢が木剣の切っ先をシェリー君の喉元に突きつける。
「ここは私達優秀な貴族令嬢の集まる場所。
あなたのような下賤で無能で汚らしい野蛮人の来て良い場所ではなくってよ。」
微笑みながらそんな事を吐き捨てる。
全く、君達は人に教える事を知らんのかね?
どんな天才も、文字という物を知らねば文章は書けない。
もしかしたら自分で文字を作り出す可能性は有るが、それは天才の創った文字だ。
未熟であれど、才能を開花させた時に太陽の如き輝きを見せる者もいる。
先程からナクッテ嬢を見ていたが、高度な教育を受けていた割にはお粗末な剣術だ。
スタートラインの違いも分からずに威張るとは、浅はかだね。
仕方ない。
「シェリー君。」
「ハイ…………ッ!なんですか?」
矢張り、意図的に利き手を狙ったか。
手に痛々しいミミズ腫れがくっきりと見えた。
「約束だ。替わり給え。」
「いえ…………でも、」
「このままでは怪我をするだけだ。
しかも、ナクッテ嬢を相手にしていても、勉学の足しには成らない。
学問の為に私は替わらずにいたが、合理的ではない。
幸い、君が替わることで、君は勉強になる。」
「………………それは……………どういう事でしょうか?」
「なぁに、文字通りさ。このモリアーティーの『モリアーティー剣術』を間近で見る事が勉強に成ると言っているのさ。」
「……………解りました。」
フッ
シェリー君の体の主導権が、シェリー君から私に移行される。
手を握って、動かしてみる。骨は折れていない様だ。
が、同時に、木剣を持てるような状態でもない。
ナクッテ嬢は片手で相手をするしか無いか。
ハァ……………………………………………………
片手間で片付けるにしても、退屈な事になる。
片手なんて使った日には確実にタダの虐めになってしまう。
攻めなくては一向に勝てなくってよ!」
木剣を構え、動きやすい服に身を包んだナクッテ嬢がシェリー君に斬りかかる。
カン!カン!カン!
シェリー君は必死に自分の手にある木剣で猛攻を凌いでいるが、遊ばれている。
剣術というよりは、暴行に近い。
現在、シェリー君は剣術の授業の最中だった。
淑女に何故剣を持たせるんだ?という話だが、
『淑女たるもの、自分の身は自分で最低限守るもの』
というのが学園の主張らしい。
という訳で、今現在、学園のグラウンドにて剣術が行われていた。
屋外に出た令嬢達が木剣を握りしめ、相手に斬りかかる様子はとても異様な光景だと言わざるを得ない。
この授業は、大半が実践。
つまり、二人一組になって木剣を握って斬り合うというものだった。
『剣術』それは剣で相手を害する事を主とした行動になっている。
『手に殺傷力十分な凶器を持ち、相手を害する。』
それはつまり、合法的な暴行に成り得る。
『授業の一環』・『親切に教えているだけ。』
その呪文はただの暴行に正当性を与える。
「剣術の試合において、攻めざるは敗北でしてよ!ホラホラホラホラ!」
こんな風に、攻めが苛烈になっていく。
「…………………………………!!」
必死に反撃の隙を伺うが、シェリー君には少し荷が重い。
剣術は本を読んで如何こうなるものでは無い。
対学問。教育機関の学問限定であれば、教科書を丸暗記すれば、その中の公式を、出された問題に落とし込めば十分以上に対応できる。
しかし、対人となると、話は別だ。
相手の身長や手足の長さや利き手と言った変数がそもそも人によって違う。
間合いがそもそも違って来る。
学園で教えている剣術以前に、本来、相手が知っている剣術が有る可能性もある。
そして、相手が知っている剣術も流派によって全く動きが違って来る。
これだけのバラバラで複雑な変数を詰め込んだ、しかも、自分より経験の有るであろう相手の攻撃を凌ぎ、
自身の最低限の剣術の知識を用いて相手を斬る。(しかも、相手は攻撃時同様の複雑な変数で防御もして来る)
それを、一瞬で変化する変数を観測し、瞬時に計算。最適解を導き出して実行。
今のシェリー君には難しい。
「ホラホラホラ!剣もまともに握れないのでして?……………そうでした。
あなたは下民の出でした。そうでした。
下民風情に貴族の娘の水準を要求してはかわいそうでしたわ。ごめんなさい。
悪気は無くってよ!」
ゴッ
シェリー君の防御の隙を突いて利き手に木剣を叩きつける。
「クッ!」
カラン
手に持った木剣が叩き落される。
ナクッテ嬢が木剣の切っ先をシェリー君の喉元に突きつける。
「ここは私達優秀な貴族令嬢の集まる場所。
あなたのような下賤で無能で汚らしい野蛮人の来て良い場所ではなくってよ。」
微笑みながらそんな事を吐き捨てる。
全く、君達は人に教える事を知らんのかね?
どんな天才も、文字という物を知らねば文章は書けない。
もしかしたら自分で文字を作り出す可能性は有るが、それは天才の創った文字だ。
未熟であれど、才能を開花させた時に太陽の如き輝きを見せる者もいる。
先程からナクッテ嬢を見ていたが、高度な教育を受けていた割にはお粗末な剣術だ。
スタートラインの違いも分からずに威張るとは、浅はかだね。
仕方ない。
「シェリー君。」
「ハイ…………ッ!なんですか?」
矢張り、意図的に利き手を狙ったか。
手に痛々しいミミズ腫れがくっきりと見えた。
「約束だ。替わり給え。」
「いえ…………でも、」
「このままでは怪我をするだけだ。
しかも、ナクッテ嬢を相手にしていても、勉学の足しには成らない。
学問の為に私は替わらずにいたが、合理的ではない。
幸い、君が替わることで、君は勉強になる。」
「………………それは……………どういう事でしょうか?」
「なぁに、文字通りさ。このモリアーティーの『モリアーティー剣術』を間近で見る事が勉強に成ると言っているのさ。」
「……………解りました。」
フッ
シェリー君の体の主導権が、シェリー君から私に移行される。
手を握って、動かしてみる。骨は折れていない様だ。
が、同時に、木剣を持てるような状態でもない。
ナクッテ嬢は片手で相手をするしか無いか。
ハァ……………………………………………………
片手間で片付けるにしても、退屈な事になる。
片手なんて使った日には確実にタダの虐めになってしまう。