思考

文字数 1,396文字

変装と仮装には雲泥の違いが有る。

仮装は、模倣対象と比較する際、表面的な一致度のみを重要視する。
カボチャをくり抜いて頭から被れば、ハロウィンの仮装は完璧だ。

しかし、変装はそうもいかない。
何度も言うが、変装は体格や容姿だけでなく、声音や言葉遣い、イントネーションや嗜好や思考パターンに行動パターン、咄嗟の状況でやってしまう事柄……
端的に言えば、本物と区別のつかない精巧すぎる贋作を作り出すことだ。
『この世に二つと無い物』を『この世に二つ有る物』にする所業だ。
ハロウィンならば、吸血鬼に変装して、太陽を浴びせられた時に灰になるくらいの完成度が求められる。

故に、変装は難しい。
もし、変装の対象となる相手の調査が不十分なままで変装擬きの仮装を行うと……………

「どうしましょう!?こんな場所が有るなんて知りませんでした!」

こうなる。
ポンコツな盗人ならばここで諦めてもいいが、我々は違う。
こういう時は頭を使って不十分な部分を補填して乗り越えてみよう。
人間は未知に弱い。が、人間はそれを補う力が有る。
私が何故暗闇の中で自由に動き、相手の行動を先読みして出来るか………解るかね?
暗闇の未知、相手の未来という未知を情報から予測しているからだよ。
流石に百年先まで予想するのは無理だろうが、あの程度であれば、幾らでも対処が出来ると言うのに、何を慌てているのやら?
「落ち着きたまえ、」「今から撤退を…………」「落ち着き給え。」「でもそれでは人質の皆さんが…」「落ち着き給え!」「私肉塊になるしか」「落ち着き給え!簡単な手が有るだろう!」
パニックを起こしかけているシェリー君を一喝する。
「え………………?教授?」
失いかけていた我を取り戻したようだ。
「目の前には解除方法を知らない仕掛け。
そして、こちらにはヒントは渡されていない。
ならばどうすればいいか?
簡単だ、知り得た情報を分析し、統合し、答えを導き出せばいい。」
未知の領域は観察と洞察、既知を用いれば既知へと引き摺り下ろす事が出来る。
「さぁ、シェリー君、この窮地を今まで手に入れた知識と、君の観察、洞察力を用いて切り抜けたまえ。
なぁに、問題は無い。この程度の問題であれば3分で辞書一冊分は解ける。」
「教授!無理です!私は偉大な魔法使いでも、ましてや明晰な頭脳の持ち主でも無いのです!
情報なんて何も無い、手掛かりも無い、逃げ道も無い、そんな中でどうやって私が出来ると言うのでしょうか⁉」
全く、道中での閃きと慈愛は一体何処へやら?
逃げ道?そんなモノは無い。
が、情報や手がかりなら幾つも有る。それこそ、ここまで来るまでに、既に情報は揃っていると言っても過言では無い。
「落ち着き給え。
シェリー君、先ず考えたまえ。35×50枚、合計1750枚なんていう数字……たかが(・・・)であろう?」
「え?」
「君の今までの出来事と比べて考えてみたまえ。1750枚のパネルから正解のパネルを探し出す位、何だというのかね?」
「……………そういえば………………。そうです、ね。」
今までやって来た事。それらを思い出して表情が和らぐ。

・豚嬢の排除
・ナクッテ嬢、剣嬢、脳筋教師の排除
・詳しくは後程説明するが、学園の宿舎の破壊
・馬車の三人組の制圧

私が手伝った事も多々あったが、それでもシェリー君の経験としては十分刺激であった。
この程度ならば今までに比べれば大した事は無い。
「さぁ、それでは冷静に考え直してみよう。」

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登場人物紹介

本作主人公にして最凶の悪役、モリアーティー教授。

異世界に飛ばされ、自分の正体を知らない幽霊となっているものの、類稀なる非道な知識の数々で未知の魔法世界でシェリー嬢をバックアップする。

チートこそ無いが、それに匹敵する頭脳を持つ知性の怪物。


魔法とて所詮は手段の一つ。今更一つ増えた程度で私の数式は揺らがない。

本作もう一人の主人公にしてヒロイン、シェリー=モリアーティー。

いじめを苦に自殺しようとしていた所を教授に止められた特待生の平民令嬢。

教授の知識を叩き込まれて徐々に成長していく。


教授に毒されそうで危険

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