当日に戻る

文字数 1,077文字

 「そう言うな、シェリー君。
 『基本その4:『出来ない』と思ったらそれは優れた手段である。』だ。
 君がそうやって買い被るのであれば、少なくとも私は君を騙せていたという事だ。
 『まさかそんな事在る訳が無い。』というバイアスを相手に与える事が出来れば、相手は決して私に届かない。
 無理だと考えるのは実行してから考える事だ。
 その考えに自身が囚われている内は相手にも自分にも敵う事は無い。
 先ずは、非論理的な常識や確証バイアスを殺す事だ。」
 限界を自分で決めてしまってはそこまでしか手は届かない。
 成長期の子どもが自身の成長に気付かず、手が届く訳が無い。と手を伸ばすことを諦めるようなものだ。
 そして、このモリアーティーは、届かないのならば手の関節を外し、道具を用い、ありとあらゆる手を用いて自身の不可能や限界という非論理的なものを殺す。
 「兎に角、これで終わった訳では無い。
 次の手を打たなければ足元を掬われるぞ。」
 「?もう、終わったのではないのですか?」
 「甘い。シェリー君。『基本その4:相手が死んでも油断はするな』だ。
 相手が息の根を止めないうちは仕返しを警戒しなければならない。
 更には、稀に自分が死んだように見せかけて相手の油断を誘う罠を仕掛ける策も世の中には居る。
 少なくとも、今回の一件で豚嬢は君の事を完全に恨んでいるだろう。
 何の関係も無い君を理不尽に、恨んでいるだろうな。
 『自分に恥をかかせて挙句に処罰を与えた原因はシェリー=モリアーティーだ。』と思っているだろう。」
 実際、階下で豚嬢はお菓子を取り上げられ、床に嵌った時に服をビリビリにしてしまい、挙句鞭の痛みに苛まれて、怒り狂っていた。
 「あの豚下民!絶対に許さない‼」
 ベッドを殴り、ギシギシと床を軋ませていた。
 まぁ、その恨みは傍から見れば理不尽且つ八つ当たりの様なのだが、どっこい、実は的を射ていたりもする。
 が、私は仕返しを甘んじて受ける気は無い。
 仕返しや復讐の連鎖は断つに限る。
 後々面倒だからな。
 方法は何か?だと?
 決まっている。
 仕返しは恨む側と恨まれる側の両方が存在するが故に成り立つ行為だ。
 つまり
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
 どちらかが消えれば、復讐の連鎖は永遠に消滅する。
 どちらか消えれば。
 しかし、私はシェリー嬢を消す気は無い。
 この子は最早、一度死んでいる。
 私が初めて会った時、もう既に彼女は死んだのだ。
 ならば、

 次に死ぬべき者が誰かは明白である。

 「シェリー君。紙とペンを取り給え。
 次の一手を打つ。」


 そして、これが最期の一手となる。
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登場人物紹介

本作主人公にして最凶の悪役、モリアーティー教授。

異世界に飛ばされ、自分の正体を知らない幽霊となっているものの、類稀なる非道な知識の数々で未知の魔法世界でシェリー嬢をバックアップする。

チートこそ無いが、それに匹敵する頭脳を持つ知性の怪物。


魔法とて所詮は手段の一つ。今更一つ増えた程度で私の数式は揺らがない。

本作もう一人の主人公にしてヒロイン、シェリー=モリアーティー。

いじめを苦に自殺しようとしていた所を教授に止められた特待生の平民令嬢。

教授の知識を叩き込まれて徐々に成長していく。


教授に毒されそうで危険

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