かいてきなたび 12

文字数 1,507文字

朝になり、周囲が明るくなると、猛獣だった熊の全貌が明らかになった。
不覚にも一瞬、驚いた。
その理由は、私が昨夜見た熊と、目の前にいる熊が、明らかに違っていたからだ。

違っていた。

様子が違うという話や、見た目が少し変わった程度の話ではない。
同一存在には見えないレベルで違っていた。
昨夜、ここには確かに、4m級の猛獣が糸でグルグル巻きになっていた。
それが今はどうだろう?
巻き付いていた糸が地面に捨てられ、その中央に、小犬の様な小熊が眠っていた。
シェリー君の体を借り、検分をさせて貰っている。
真夜中の狩りの後、シェリー君に言って、全員に寝る様に言っておいた。
その指示に全員従い、女性達は焚き火。男達は馬車で寝ていた。 私は、シェリー君を見守りつつ、近くの木に縛り付けてある熊を警戒していた。
縛り付けた木は、焚き火から遠く、とても視認は出来なかったが、一晩中警戒していた。
あの熊に近付いたものは存在しない。
しかし、目の前にいる小熊は、同一個体と見られる特徴が一致するが、ただ一点。明らかに大きさが違っていた。
1/10に縮んでいた。
私が見た書物には、こんな風に急激に巨大化する、ないしは縮小化する生き物が居るとは書いてなかった。
「教授…………」
シェリー君も言葉を失っていた。
「教授、小熊です!可愛いですね!」
熊を起こさない様に、しかし、興奮を抑えられないのが解り過ぎる程解る勢いで私に言った。
違った、困惑では無かった。小熊に心を奪われ、かなり、相当、凄まじく浮かれていただけだ。
昨晩までのあのシェリー君と今のシェリー君は別人なのかね?
「撫でてみても…」
キラキラした目でこちらを見る。
別に、原因に予想がつかないわけではない。
今現在、この小熊に危険性は無い事は解っている。
「好きにするといい。
ただし、動物を慈しむ気持ちは忘れない事だ。」
「勿論です!」
そう言って眠っている小熊を起こさぬように、静かに、柔らかに、優しく撫でる。
「………………ッッッ!!!!!!!!」
無言で熊を愛でるシェリー君。

さて、今度は人体に無害で熊だけに有害な毒を考えねばならなくなってしまったな………

「提案が有る。
少し、遠回り……いや、ゆっくり進もうと思う。」
赤毛女が朝食を終えたところで提案をした。
「どうしたんですかい?」
「珍しいなぁ…『ゆっくりする』なんて言葉を使うなんてよぉ。」
「スカーリさん、何か有ったのですか?」
男達だけでなく、シェリー君も彼女の発言に疑問を抱く。
「何か有った…って言ゃあ、昨日のさ。
アタシの不手際だったけど、あんな猛獣を見逃しちまった。
これから、又あんなのが居たらそれこそお陀仏だってあり得る。今回は運が良かっただけさ。
焦る旅じゃない。
命有っての物種。
少し、慎重に進みたいと思ってる。
シェリー、あんたには悪いと思ってるんだが、少し、時間が掛かる旅になっちまうが………良いかい?」
「………えぇ、勿論。
私は今、ちょっと嬉しかったりしています。
だって、皆さんともう少しだけ長く、一緒に居られるんですから。」
屈託の無い笑み。
「シェリー………アンタ………」
「良い子じゃないですかぃ!」
「良い娘だよぉぉぉぉ!」

ガシッ!

三人がシェリー君を中心に抱擁した。
「アンタ、絶対に願い叶えな!直ぐにね!
したらアタシらと世界を旅しよう!絶対しよう!
したらアタシらとずぅぅっと一緒だ!」
「こんな良い娘、本当に居るんですねぇぇぇぇ!」
「俺、シェリーちゃんとの出会いが在ってよかったよぉ……」
「皆さん………そんな……私だって、私だって………………………」
感極まって泣き出すシェリー君。


男二人と女一人、そして、小熊一頭。
これがこの旅で私が最低でも始末すべき相手の数だ。
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登場人物紹介

本作主人公にして最凶の悪役、モリアーティー教授。

異世界に飛ばされ、自分の正体を知らない幽霊となっているものの、類稀なる非道な知識の数々で未知の魔法世界でシェリー嬢をバックアップする。

チートこそ無いが、それに匹敵する頭脳を持つ知性の怪物。


魔法とて所詮は手段の一つ。今更一つ増えた程度で私の数式は揺らがない。

本作もう一人の主人公にしてヒロイン、シェリー=モリアーティー。

いじめを苦に自殺しようとしていた所を教授に止められた特待生の平民令嬢。

教授の知識を叩き込まれて徐々に成長していく。


教授に毒されそうで危険

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